Act・5-2

NSM series Side・S

玄関前に置かれたのは
ズタズタに切り裂かれたTシャツ。
宣戦布告、だろうか。
亨はスッカリ怯えてしまい、埒が明かない。

「お前は俺が守ってやる。
 そう約束しただろう?」
「そんな事言って、逃げるんじゃないだろうな!」
「別に信用してもらわなくても良い」

北条は表情を変えず、アッサリと言い放つ。

「俺が刺されたら西部署に逃げ込め。
 それだけで良い」
「」
「俺が刺されるかどうか迄は知らないがな」

「怖くないのかよ?」
「流石に慣れたね」
「」

出任せ、虚勢。そんな欠片は微塵も感じない。
亨にもそれは判っている。

だからこそ感じた、恐怖。
目に見えない切り裂きジャックに対してでは無い。
目の前に居る北条に対して
確かに恐怖を覚えているのだ。

「どうしてなんだよ?」
「何が?」

「どうしてそんなに『死にたがって』んだよ。
 刑事のクセに」

「誰が『死にたがってる』だって?」

北条はそう言うと、
今迄見せた事の無い様な険しい表情を浮かべていた。

心外だったのだ。
亨に迄見抜かれる位、隙が有ったのだろう。
その事に誰よりも彼は腹を立てていた。

「くっだらねぇ」

悪態を吐いてはみたが、空しいだけだった。

* * * * * *

「切り裂きジャック?」

刑事部屋で電話を受けた山県は途端に顔を顰めた。

「何時の話だ、それ?」
『亨がそう言って怯えてる。
 何か関係が有るんじゃないかと思って』
「イギリスの殺人鬼の名前だったっけ?」

「通称、切り裂きジャック。
 Jack the Ripper(ジャック・ザ・リッパー)は
 1888年、8月31日から11月9日の2ヶ月間に於いて、
 イギリス ロンドンのイースト・エンドや
 ホワイトチャペル地区で
 売春婦5人以上をバラバラ殺人にした
 連続猟奇殺人犯の名称だ」
「ハト」

「亨の追っていたヤマはそれか」

鳩村はかなり険しい顔をしている。

「大将。東部署で起こっていた連続殺人犯」
「あぁ、例の猟奇殺人犯だな。
 マスコミに殺人終了書なんてふざけた文書を
 送りつけたとかで大騒ぎになった」

「まさか、ハトさん」
「単独犯でも快楽殺人犯でも無かったって訳か」

鳩村は舌打ちをして、山県から受話器を奪い取る。

「ジョー。相手が悪い」
『覚悟の上だ。俺は退かない』
「只では済まないぞ。
 俺達が応援に行くまで動くな」

『多分間に合わないだろうな』
「ジョー?」

『来た。亨を逃がす。後は』
「ジョーッ!!」

電話は不意に切れた。
北条が襲撃を察知し、切ったのかも知れない。

「ハト」
「一兵。お前は署に残り、亨を護衛しててくれ」
「解ったよ」

「大将、コウ。行くぞ」

鳩村は短くそう言うと、愛器を片手に部屋を飛び出していた。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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