Act・5-3

NSM series Side・S

古ぼけた時計の重い金の音が耳に届く。
意識が段々と薄らいでいく。

腹部に受けた傷が予想以上に悪化している。
体が熱を帯びている。燃える様に熱い。

「……ってぇ」

そう呟く事で逆に痛みを堪えている。

亨を逃がす為に態と追手を挑発した。
しかし。

「『切り裂きジャック』が拳銃使うのは…
 反則、だろうが……」

止血の為か、痛みを抑える為か。
北条は銃撃部分を強くハンカチで押さえていた。

「……」

もう片方の手で胸ポケットから煙草を取り出し
徐に口に運ぶ。
奥歯がガタガタと震えていて、
しっかり咥えられないらしい。

「…漸く」

『死』に対する恐怖は全くと言って良い程無かった。

それよりも、何だろう。
高揚感、喜び。それらに似た感覚。

「…漸く、俺の番が…回って、来たの…かな…?」

静かな笑みを浮かべ、北条はぼやけた天井を見つめた。

「やっと…貴方に、逢えるんだ……」

やっとの思いで煙草に火を点け、深く紫煙を吸い込む。
慣れた味が心地良かった。

「これが最期の…煙草、かな?」

静かに目を閉じると、何故か浮かんだ人の姿。

逢いたいと切望している人物ではなく、
普段嫌と云う程共に居る、仲間達。

「…どうして?」

今一番逢いたいと思う人物の横顔が
何故あの男ではないのか。
それが納得出来なかった。

「…まだ、執着してる…のか?
 俺は…この場所を……」

足音が聞こえてくる。
巧く巻いたつもりだったが、出血痕は消せずにいる。
此処が見つかるのも時間の問題だった。

「来るなら…来てみろ……っ」

北条は再度力を振り絞り、
残り僅かとなった弾丸を確認して銃を構えた。

* * * * * *

段々呼吸音が耳につくようになった。
身を潜めているから此方の姿は見えないだろうが
同時に此方からも相手が見えない。

音だけが、頼り。

神経を研ぎ澄ませ、相手の動きを探る。
足音は複数有る。3つ、か。

「弾は…3発。ジャスト…か……」

一瞬で勝負をつける。
覚悟は決まっている。

彼はそう決めると、器用に体を丸めて床に転がし
追手を視界に納める。
そのまま指は素早く引き金を引く。
追手3人の肩、腕、足を狙撃し 動きを止めた。

しかし、弾数が残っていない上に敵はまだ1人残っていた。

こめかみに当てられた銃口。
全てを物語る、その瞬間。

「神様に懺悔しな、刑事さん。
 お祈りの時間くらいはくれてやるよ」
「俺は宗教なんて信じてないんでな。
 撃つんなら早く撃て」
「可愛くない野郎だ。そんなに死にたいか」

北条は鼻で笑う仕草を浮かべ、相手を挑発していた。

もう意識はかなり低下している。
痛みも無い。熱さも、無い。

『もう…何も怖くない。
 これで終わるなら、それでも良い。
 俺は精一杯生きてきたんだから……』

北条は笑顔のまま、その時を待っていた。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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