Act・5-4

NSM series Side・S

「よく寝てるよ、ジョーの奴」

山県は病院から真っ直ぐにセブンへと向かった。
席に着くや否や、
嬉しそうに顔を綻ばせて酒を煽る。

「間一髪、だったな」
「そうですね。ゾッとしましたよ、あの状況は」

鳩村は立花と顔を見合わせた。

こめかみに銃口を向けられ
それでも怯む事無く、静かに微笑を浮かべていた北条。
彼の覚悟に、犯人側が臆していた。

鳩村達が到着したのは正にその時。

鳩村が叫び、山県が犯人の拳銃を撃ち落していた。
一瞬の判断、そして行動。
立花は2人の行動を確認し、無線で救急車を呼ぶ。

「連係プレイの勝利だね」
「全くだ…」

平尾も笑顔で山県に酒を注ぐ。

「で、大将。ジョーの容態は?」
「暫くは絶対安静との事」
「当たり前ですよね。死にかけてたんだから」

真っ青な顔をしながら、彼は微かに何かを呟いていた。
口の動きで、内容は理解出来た。
だが…正直、まだそれが信じられない自分が居る。

「…アイツ、本当に……?」
「ん? どうした、大将?」
「…何でも無いですよ、班長」

山県は締まりの無い自分の表情に気が付いたのか、
ほんのり顔を赤らめ、小鳥遊に酒を注いだ。

* * * * * *

暫くは和やかに酒を呑み、語らう。
そのままで行く筈だったのだが、何かが違う。
少なくても、どうも雰囲気が違う。

「……」

鳩村は心配そうに其方を見ている。
眉が寄り、眉間に皺がクッキリ出来ているのだが。

「班長…」
「ん?」
「かなり…呑まれましたよ、ね?」
「そうか?」

「…日本酒。一升瓶がゴロゴロ転がってるんですが。
 あれ…殆ど班長一人で
 お召し上がりになられてますよね?」
「そうか? お前も呑むか?」
「いえ…そうじゃなくって……」

冷や汗が流れてきた。
小鳥遊はなかなか酒豪なのか、
顔色一つ変えずに、
水の様に日本酒を呑み干している。

「…ジョーが居たら喜びそう」
「そうだな。アイツ、日本酒好きだし」

隣で静かな寝息が聞こえてくる。
立花が鳩村の肩に凭れる様にして、
いつの間にか眠っていた。

「お疲れさん、コウ…」

鳩村は脱いであった上着を取ると、
それをそっと立花に掛けてやる。

「優しいねぇ~」
「大きな声を出すな、大将。
 コウが起きるだろう?」

「…本当、優しいねぇ 鳩村は。
 妬けるよ、全く……」
「…龍? 何故此処に?」

「それはコッチの台詞。
 気分の切り替えに
 アーチとお忍びで呑みに来ただけ」

高崎はそう言うと、
鳩村から立花を綺麗に引っ剥がす。

「それはそうと…」

話を割って入って来た平尾の表情に余裕が無い。

「どうした、一兵?」
「あれ…どうする?」
「ん…? ……っ!!」

その場に居た全員の血の気が引く音が
聞こえて来る様だった。

この日の出来事は、後に小鳥遊班で伝説と化す。
そして、教訓。

『班長に日本酒を呑ませるべからず』

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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