静かに横になっていると、ドアの向こうから声が聞こえてくる。
ゆっくりと体を起こすが、微かに痛みが走り
思わず顔を顰めてしまった。
「…課長」
「あぁ、まだ無理するな。
傷が広がっちゃ、かなわんからな」
「…済みません」
そんな部下に苦笑を浮かべつつ、優しく髪を撫でてやる。
安心したのか、彼はふと
最近は滅多に見せなくなった穏やかな表情を浮かべていた。
誰かを思い出しているのだろうか。
それが解るだけに、辛くなる。
「陣中見舞いだ」
「え…?」
手渡されたのは1本のカセットテープ。
ラベルには何も書かれていない。
「お前さん宛てだ」
「…自分に? 誰が……」
「聞けば判るよ」
「はい……」
木暮はそう言うと、思い出したかの様に
再生専用のテレコを取り出した。
「これも必要だったな」
そう言って笑う木暮の表情もまた、明るいものだった。
「ジョー?」
変な気配を感じ、見舞いに来た山県はそっとドアを開ける。
北条は眠っている様だったが、
何かがおかしい。
「…イヤホン着けたまま寝てるのか?」
そっと近付いた時、山県はその表情を見てハッとした。
安心した様な、しかしシッカリと残る涙の跡。
「……ジョー?」
まるで子供みたいな表情だった。
悲しみの涙ではない。
この涙の意味は、もしかしたら。
「…団長、なのか」
山県はテープの意味を理解した。
これは大門から北条に送られた
最期のプレゼントだったのだろう。
微かに音が漏れている。
しかし、それを聞く事は憚れた。
「これは団長がジョーにだけ送った物だからな。
俺は何も聞いてない、と…」
苦笑を浮かべながら、山県は病室を後にする。
「良い夢見ろよ、ジョー」
静かに振られた手。
その動きは滑らかで、山県の心の晴れやかさを表現していた。
北条が目を覚ましたのは、山県が去ってから凡そ3時間後。
テープはまだ再生され、大切なメッセージが耳に優しく届いている。
「…一緒に、生きているから……」
思えば…あの瞬間から『生きる』事が苦痛だった。
命を掛けて守りたかった存在。
目の前でそれを奪われた事への憤り、怒り、悲しみ。
全ての柵を捨て去って、その人物の傍へ行きたかった。
誰に否定されようが、揺るがなかった思い。
それだけ、絶望していたのだろう。
「一緒に生きているから…
だから……」
『その手で必ず、お前自身の幸せを掴め』
声にならず、唇の動きだけで言葉を辿る。
乾いた筈の涙が又溢れてきた。
「それが…これからの、
貴方と俺との『約束』…なんですね……」
静かに瞳を閉じ、その言葉を…声を
心に浸透させていく。
もう、寂しくはない。
自分はもう…孤独ではないのだから。
「俺はもう…大丈夫です、団長。
見てて下さい。
これからの、俺の…生き方を」
再度ゆっくりと瞳を開けた北条は
精悍な顔つきになっていた。