Act・5-5

NSM series Side・S

「どうだ、具合は?」

静かに横になっていると、ドアの向こうから声が聞こえてくる。
ゆっくりと体を起こすが、微かに痛みが走り
思わず顔を顰めてしまった。

「…課長」
「あぁ、まだ無理するな。
 傷が広がっちゃ、かなわんからな」
「…済みません」

そんな部下に苦笑を浮かべつつ、優しく髪を撫でてやる。
安心したのか、彼はふと
最近は滅多に見せなくなった穏やかな表情を浮かべていた。

誰かを思い出しているのだろうか。
それが解るだけに、辛くなる。

「陣中見舞いだ」
「え…?」

手渡されたのは1本のカセットテープ。
ラベルには何も書かれていない。

「お前さん宛てだ」
「…自分に? 誰が……」
「聞けば判るよ」
「はい……」

木暮はそう言うと、思い出したかの様に
再生専用のテレコを取り出した。

「これも必要だったな」

そう言って笑う木暮の表情もまた、明るいものだった。

* * * * * *

「ジョー?」

変な気配を感じ、見舞いに来た山県はそっとドアを開ける。

北条は眠っている様だったが、
何かがおかしい。

「…イヤホン着けたまま寝てるのか?」

そっと近付いた時、山県はその表情を見てハッとした。

安心した様な、しかしシッカリと残る涙の跡。

「……ジョー?」

まるで子供みたいな表情だった。
悲しみの涙ではない。
この涙の意味は、もしかしたら。

「…団長、なのか」

山県はテープの意味を理解した。

これは大門から北条に送られた
最期のプレゼントだったのだろう。

微かに音が漏れている。
しかし、それを聞く事は憚れた。

「これは団長がジョーにだけ送った物だからな。
 俺は何も聞いてない、と…」

苦笑を浮かべながら、山県は病室を後にする。

「良い夢見ろよ、ジョー」

静かに振られた手。
その動きは滑らかで、山県の心の晴れやかさを表現していた。

* * * * * *

北条が目を覚ましたのは、山県が去ってから凡そ3時間後。
テープはまだ再生され、大切なメッセージが耳に優しく届いている。

「…一緒に、生きているから……」

思えば…あの瞬間から『生きる』事が苦痛だった。
命を掛けて守りたかった存在。
目の前でそれを奪われた事への憤り、怒り、悲しみ。

全ての柵を捨て去って、その人物の傍へ行きたかった。

誰に否定されようが、揺るがなかった思い。
それだけ、絶望していたのだろう。

「一緒に生きているから…
 だから……」

『その手で必ず、お前自身の幸せを掴め』

声にならず、唇の動きだけで言葉を辿る。
乾いた筈の涙が又溢れてきた。

「それが…これからの、
 貴方と俺との『約束』…なんですね……」

静かに瞳を閉じ、その言葉を…声を
心に浸透させていく。

もう、寂しくはない。
自分はもう…孤独ではないのだから。

「俺はもう…大丈夫です、団長。
 見てて下さい。
 これからの、俺の…生き方を」

再度ゆっくりと瞳を開けた北条は
精悍な顔つきになっていた。
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