Act・5-6

NSM series Side・S

『東京版・切り裂きジャック』事件が解決し、
漸く一段落付く事が出来た。

「FBIまで動いていたとはね。
 本庁からそれを聞かされて吃驚だよ」

平尾は苦笑を浮かべながら珈琲を味わう。

「何だかんだ言っても、
 日本の警察は頑張っているからな。
 まぁ、良いお手本になっただろう」
「ジョー先輩のアレは良いお手本ですか、大将さん?」
「侍魂って奴だ。
 まぁ、真似は出来ねぇな」
「腹切り、武士道の精神って奴?」

鳩村が呆れ顔で口を挟む。

「俺、日本人だけど
 真似したくない」
「しなくても良い。
 却って仕事が増えるから
 寧ろするな」

鳩村と山県が言い争いを始めた頃、
ふと平尾は視線を刑事部屋の扉に向けた。

「一兵さん?」
「オジサン2人の世話は任せたよ、コウ君」
「…え?」

平尾はそのままスッと部屋を後にした。

* * * * * *

「やっぱり君か、亨君」
「どうも…です」

廊下で、平尾は彼に追いついた。
随分と大荷物を抱えた亨の姿は
以前の勝気な様子とは全く異なっている。

「どうしたの、今日は?」
「あの…」
「ん?」
「北条、…あ、北条刑事は…?」
「まだ病院だけど…。
 何、ジョーに用事?」

「…これ、渡して下さい」

亨が差し出したのは1枚の写真だった。

「これを、ジョーに?」
「はい……」
「……」
「お世話になりました。
 俺、里に帰ります…」

亨は静かに頭を下げると、
そのまま署を後にする。

平尾は敢えて追い駆けなかった。
追い駆けなければならない理由も無い。
そして、見守りたいと感じていた。

彼の、これからの生き方を。

* * * * * *

「あぁ、これか」

北条は静かに微笑を浮かべながら
写真を受け取っていた。

「何? 何があったの?」
「アイツ、カメラマンでしょう?
 俺、一度言った事があったんすよ」
「何を?」

「お前の撮る東京の空が好きだって」
「…そう云う事か」

漸く平尾の中で合点が行った。

亨が差し出した写真は
ビルの狭間から覗く青空の写真だったからだ。

「下らないゴシップ写真撮らせるの
 勿体無いと思いません?
 アイツ、腕は有るんだから」
「お前に写真を見る目が備わってた方が
 僕には驚きだよ」
「…失礼な」

北条は自然な笑みを浮かべている。
懐かしい笑い方だった。

「漸く晴れ間が見えたな」
「ん? 何が?」
「お前のその笑顔。
 何年ぶりかに見たよ」
「……」

「ジョー?」
「…俺も漸く晴れ間を見つけたから」

静かに笑みを浮かべたまま
彼は平尾を見つめていた。

「答えを、見つけた」
「答え?」
「俺がずっと捜し求めていた、答え。
 この間、見つけた」
「…そうか」

その『答え』が何を意味するのか
平尾には良く解らなかったが。

「有難う、一兵さん」
「おいおい。
 僕は何もやってないよ?」
「だからだよ」
「?」
「有難う…」
「……」

感謝されると恥ずかしいらしい。
平尾は赤面したまま俯いてしまった。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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