Act・5-7

NSM series Side・S

日曜のミサに参加出来るのもかなり久しぶりである。
静かにマリア像に祈りを捧げながら、
山県は最近の事を振り返っていた。

長かった、と感じた。

自分でも気が付かない内に、
もしかすると自分自身も
『時間』を止めてしまっていたのかも知れない。
そう考えると、責める気にはなれなかった。

「存在がデカ過ぎて、背中を追い駆けてるのが楽だと思ってた。
 まるでその『しっぺ返し』をずっと食らってた気分だ」

漸く進み出した時間。
その切っ掛けを与えた人物が、時間を『止める』切っ掛けでもあった。
彼が動き出した事で、周囲も自然と動いた。

「世代交代とまでは言わないが…
 アイツがこれ程までに影響力を持っていたとはな」

失うかと思われたあの瞬間、確かに届いた言葉。

『待ってたよ』

ただ一言だったが、重い言葉だった。

「もう間も無く退院だって言ってたか。
 相変らず回復力の早い奴だな。
 まぁ、まだまだ若いって事?」

自然と笑みが零れて来る。
もう一度、聖母に祈りを捧げ 山県は教会を後にした。

* * * * * *

病院の受付で、山県は意外な姿を見つけた。

「龍?」
「よう、山県」

「…どうした? 怪我でもした?」
「俺が見舞いに行くのは可笑しいか?」
「見舞いって……?」
「503号室」
「…ジョーか」
「まぁね」

高崎は軽口を叩いているようだが、表情が重い。

「…何か遭ったのか?
 まさかジョーの奴、急変したとか?」
「別に。結構元気だったぜ」
「じゃあ何でそんな暗い顔なんだよ」
「……」

「龍?」
「お前に見抜かれちまうとは…正直自分にガッカリだ」
「…コウ、来てるのか?」
「…あぁ」

病室で何が遭ったのかまでは判らないが
高崎の様子を伺えば、何となくだが察する事は出来る。
立花に何かが遭ったのだろう。

『…今のジョーなら、コウを任せても大丈夫だろう』

山県はそう判断すると、高崎に向き返った。

「時間、有るか?」
「…一応、今日はオフだからな」
「じゃあ、俺がお前の愚痴に付き合ってやるよ」
「高くつきそうだな」

そう良いながらも、高崎は何処かホッとしたような表情を浮かべた。

* * * * * *

長い沈黙。
立花は先程から黙ったままだが、北条もまた、何も聞かない。
穏やかな表情を浮かべたまま、窓の外を見ている。

「…良い天気だな」

ふと、北条はそう言って立花を見つめた。

「退院したら…墓参りと洗車がしたいと思ってたんだ」
「……」

「変わらないよ、意外とな」
「自分には…別人に見えますよ」
「そうか?」
「…はい。自分は、自分だけは…昔の先輩を知らない」
「今の俺が昔と同じかと言えば、そうじゃないと思うぜ」
「そうでしょうか…?」
「そうじゃなかったら、俺は全く成長が無いって事になるが」

北条はそう言って苦笑を浮かべる。

「これからも俺は目一杯過去を振り返る。
 大切な思い出を態々捨てようとは思わない」
「……」

「だけど、未来も…現在(いま)も大切だから。
 俺は、俺の方法で守っていくさ」
「……」

「出来るかどうかなんて判らないけどな」

北条は一瞬だけ瞼を閉じた。

「…もう、後悔だけはしたく無いんだ」
「後悔…?」
「俺の目の前で、…誰も死なせはしない」

強い決意。
その一念で彼は此処まで自分自身を回復させた。
此処まで強い気持ちを持てるのだろうか。
立花は自分に対し、やはり自信が持てない様子だった。

そんな立花の様子を、心配そうに北条は見つめていた。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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