Act・5-8

NSM series Side・S

「伊達眼鏡?」

開口一番の言葉に、
高崎は「相変わらずだ」と毒舌を吐いていた。

変装用に掛けていた眼鏡についてのコメント。
立花から話を聞き、心配していたのだが、
流石にそれは悟られたくなかったらしい。

「素直じゃねぇ奴だよ、全く…」

山県も苦笑を隠し切れない。

「最近暇なの?」
「オ・フ!」

翌日からは隙間無く埋められたスケジュール帳を翳し
高崎は笑みを浮かべて見せる。

「で、もう出てくるんだモンな。
 アイツ、化け物か何かか?」
「一応、人間。
 鍛え方が半端じゃないだけ」
「…半端じゃないって言葉で片付けるか」

「優しいよねぇ、龍君は。
 態々見舞いにまで来てくれたんだから」

山県はふと腕時計に視線を落とした。

「時間か?」
「あぁ、名残惜しいがな」

「…伝票は置いて行けよ。
 俺が払ってやるから」
「…どういう風の吹き回し?」
「気紛れ」
「…サンキュ、龍」

山県からの礼に、高崎は照れを隠そうとしていたらしい。
早く行けと云うゼスチャーが返って来た。

* * * * * *

「ハトさんって眼鏡掛けます?」
「サングラスならな」

鳩村は伸びをしながら答えている。

「サングラスは良く見てますから」
「…それもそうだな」
「一度見てみたい、かな?」
「俺の眼鏡姿?」
「えぇ」
「…そんなに面白いものでもないぞ」

最近、少し気の付いた事がある。
鳩村の表情が少し穏やかになった。
この変化に気付いているのは自分だけだろうか。
立花はそんな不安に首を傾げていた。

「一兵さんは、それ…本物ですか?」
「眼鏡?」
「えぇ…」

「伊達眼鏡だぜ、一兵のは」
「本当に?」

「まぁ…無くても見えるけどね。
 眼鏡掛けてる方が落ち着くんだよ」

平尾は珈琲を飲みながら、何かを読んでいるようだった。

「そう言えば、コウ…病院行ってたんだろう?」
「えぇ。兄も来てました」
「龍が?」
「…珍しい事」

「心根は優しいんですよ。
 恥ずかしがり屋だから、すぐ隠そうとするんで
 どうしても天邪鬼な態度取っちゃうんですが」
「流石は弟だね。よく見抜いてるよ」

書物を閉じ、平尾が珈琲片手に近付いて来る。

「こっそりトレーニングとかしてなかった?
 ジョーはそれで、何度か婦長さんと揉めた事が遭ってね」
「横になってましたよ。普通に」
「横になりながら鍛えてたりしてな」
「有り得る」

鳩村と平尾が顔を見合わせて笑う。

「そんなに無茶するんですか?」
「まぁ、鍛えるのが趣味みたいだから
 本人曰く『無茶』では無いんだよ」
「それを『無茶』って言うんですよ…」
「後輩に言い切られれば世話ないね、ジョーも」

平尾の言葉に、鳩村は余程受けたらしく
腹を抱えて大笑いしていた。

* * * * * *

その頃。

北条は退院準備をしながら
誰かと話をしているようだった。
静かな声と、時折訪れる沈黙。

「…そうですか」

北条は何かを納得したように頷いた。

「終わらないって事ですよね…」
「そう云う事だ」
「……」

静かにその人物を見つめ、思わず溜息が漏れた。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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