Act・5-9

NSM series Side・S

季節はずれの長雨、
その音に耳を傾けながら
鳩村はふと運転席を見つめる。

視線に気付いたのか、
主は器用に目を動かして答える。

「…何?」
「いや…もう、大丈夫か?」
「あぁ」

退院後、直ぐに事件の張り込み。
体調を気遣ってやりたいが、そうもいかない。

「また、雨だな」

鳩村はボンヤリと呟いた。

「…そうだな」
「団長の…葬式」
「……」
「同じ様に…雨、だった」

告別式に、北条は出席していない。
あの時、右足を撃たれた彼は強制的に入院させられ
只一人…欠席していた。

窓を叩き付ける激しい雨の音を、
今でも…覚えている。

「ハトさん」
「…ん?」

「墓参り、行きましょうよ」
「ジョー…」
「この件が終わったら」
「…あぁ、そうだな」

「ハトさんと、俺と、
 後は…班長で」

鳩村の目が驚きの色を見せる。

「班長?」
「あぁ、そうだよ」
「……」

「どうかした?」
「いや…何でも無い……」

鳩村は口に手を当てたまま
黙り込んでしまった。

* * * * * *

パトロールから帰っても、
鳩村はやはり一言も話そうとしない。

「何か、遭ったんですか?」

立花の問い掛けに、北条は表情を曇らせる。

「解らない」
「…そうですか」
「あぁ…」

最後に小さく、北条は
「済まないな…」と呟いた。

心当たりが無い訳ではない。
寧ろ、思い当たる点がハッキリしている。

長い間、楔に囚われていたからこそ解る。
だからこそ、自分が解放してやりたいと思う。
切実な願い。
『救いたい』と云う切ない願い。

「ジョー」
「…ん?」

山県が声を掛けてくる。

「此処の書類だがな、
 ちと整理しないといけないんだわ。
 手伝ってくれない?」
「…俺が?」
「そう。昼飯奢るから」
「随分太っ腹だな」

北条は苦笑を浮かべながら
静かに頷いた。

「良いよ。
 で、何処から手を付ければ良いんだ?」
「えっとだな…」

2人は何やら四苦八苦しながら
作業を開始している。
そんな姿を見つめながら
立花がふと溜息を吐いた。

『大将さんは…
 ジョー先輩が落ち込んだのを察知して
 声を掛けたんだろうな。
 でも、俺は……』

相変わらず何も語らない鳩村。
その寂しそうな背中。

『一言、たった一言。
 それが掛けられないなんて…』

こんな時ほど自分の無力さを痛感する事は無い。
そんな無念さが溜息となって表れる。

「幸せが逃げていくよ、コウ君」

平尾がそっと肩に手を乗せて
優しく微笑み掛ける。

「一兵さん…」
「こんな時こそ、笑顔を忘れちゃいけない。
 雨はいつか止んで、晴れ間が広がるんだから」

彼の存在こそ『晴れ間』なんだろうと
この時、立花は強く感じた。
人間の大きさ、強さ。

『一兵さんの様に…
 常に笑顔で、皆を支えられたら…』

いつか、小鳥遊班に晴れ間を呼び込む為にも。

立花はそっと、心の中で誓いを立てていた。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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