Act・5-10

NSM series Side・S

最近小鳥遊班を悩ませる問題が発生していた。
110番電話である。

昼夜問わず引っ切り無しに鳴り響く電話に
皆、かなり神経をピリピリさせていた。
所謂『無言電話』なのである。

「今日、何度目?」
「さっきので…58回目です」
「…よく数えてたね、コウ。
 偉い偉い……」
「…大将さん」

山県は机に頭を沈めながら
立花に声を掛けていた。

「お巡りさんを舐めてるのかね、コイツ等?」
「しかしさ。何でウチだけ…?」

平尾はふと首を傾げた。
キョトンとしたのは山県である。

「ウチの班直通なんだよね、この悪戯…」
「そう言われれば……」
「他の班や課では苦情を聞きませんね。
 廊下で前を通っても、
 部屋は静かなもんだし…」

「小鳥遊班が『ターゲット』なんだ。
 この無言電話は…」

平尾はふと何か
考えを巡らせたらしい。

「また善くない事件に
 結び付かなければ良いけど…」

平尾の呟きに
山県と立花も黙り込んでしまった。

* * * * * *

「逆探した?」
「してみたけど複数でね。
 流石に絞り切れないみたいだよ」
「広範囲?」
「当たり。
 1都1道2府23県」
「何じゃそりゃっ?!」

集められたデータを解析しながら
鳩村は盛んに唸っている。

「あったまくるなぁ……」
「それが向こうの『狙い』なんじゃねぇの?」
「大将…」

「怖い顔しなさんな、ハト。
 焦れば向こうの思うツボよ」
「それはそうなんだが…」

「昔の様には行かないって事かな…?」

北条の何気無いボヤキ。

それに対し、何故か平尾と立花は
空かさず顔を見合わせる。

「どうした、2人共?」
「その資料貸してね、ハトさん!
 コウ君っ!!」
「はい、一兵さん!!」

2人が向かったのは
大型のコンピューターが用意されている
本格的な情報管理室だった。

「…そうか、インターネット。
 掲示板の書き込みに反応してなら
 この異常な数も範囲も
 納得出来る……」

鳩村は2人の考えに気付いたらしく
ふと独り言を漏らしていた。

「ここは…一つ、
 一兵とコウに任せるか…」

* * * * * *

「匿名掲示板の書き込みが元で
 今回の事態が発生した訳だ。
 成程な…」

事態の沈静を経て、
小鳥遊は報告を聞きながらも
硬い表情を崩そうとしない。

「匿名性の怖さ、
 集団行動に纏わるモラルの低下。
 正しく『現代病』かな…」
「それだと、
 『赤信号、皆で渡れば怖くない』って奴…
 でしたよね」
「言い得て妙だが、そうだな」

山県の発言に対し
彼は神妙な顔付きのまま頷いた。
報告書の文字に視線を落とし、
溜息を吐く。

「既に『悪戯』の一言では片付かないな」
「そうですね、ハトさん」

鳩村、立花も同様だ。

「でも…やはり納得出来ないんです…」
「どうした、一兵?」
「どうしてターゲットが
 『ウチ』だったんですかね?」

平尾の問い掛けに誰も答えられない。
それは誰もが感じていた『不安』だったからだ。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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