Act・6-1

NSM series Side・S

謎の『無言電話』騒動から1ヵ月後。

1本の電話が刑事部屋に鳴り響いた。
受話器を取ったのは立花である。

「はい。
 西部署捜査課です」
『…団長さん、居る?』
「団長?」
『大門団長。居るんでしょ?
 早く替わってよ』

若い男の声。

どう返答しようか考えあぐねていると
鳩村が自分に回せと目配せを送って来た。
立花はそのまま素直に
受話器を彼に渡す。

『大門さん?』
「大門は居ない。
 俺が替わりに聞こう」
『それじゃ駄目だな。
 ボク、大門さんと話がしたいんだもん』

背後では既に平尾が録音を開始し、
山県が逆探知を指示していた。

『大門さんに替わってよ』
「何度も同じ事を言わせるな。
 大門は……」
『あ、そう。
 じゃあ、もう良いや』

「待て。
 お前は…団長の情報屋か?」
『情報屋?
 そんなんじゃないよ。
 まぁ、面白い話のネタなら
 色々持ってるんだけどね。
 でも…アンタ、大門さんじゃないから
 話してやらない』
「おい、一寸待て…っ!」

電話はそのまま切れた。
歯痒そうに鳩村は受話器を置く。

「逆探、成功。
 随分と甘いな、コイツ。
 莫迦か?」

山県はブツブツ文句を言いながら
そのデータを取り出し、
机の上に広げた。

* * * * * *

一方その頃。

「済まないね、呼び出したりして」

北条は一人の老人と話をしていた。
粗末な身形だが、その眼光は鋭い。

「いや、良いっすよ。
 で…何か遭ったんですか、トクさん?」

北条は笑顔の奥にも厳しい表情を浮かべている。

「情報屋仲間の気になる世間話を
 一寸小耳に挟んだモンでね。
 此処は一つ、ジョーさんにと思って」
「…いつも助かります」

トクさんと呼ばれた情報屋は
周囲を軽く見回し、
そっと北条に耳打ちする。

「新宿界隈でデカイ花火を打ち上げるって
 豪語してる奴が居るそうなんだ」
「…デカイ、花火?
 まさか……」
「その『まさか』かも知れないね。
 用心しておいた方が良い」
「…はい」

北条は胸ポケットからスッと
1万円を取り出し、トクさんに握らせた。

「安月給が、無理しなさんな」
「そうは行きませんよ」
「…そう云うキップの良い所は
 団長さんにそっくりになってきたよ。
 良い刑事になったもんだね」
「トクさん、有難う…」

トクさんは元々大門の情報屋だった。
大門の殉職に伴い、引退しても良かったのだが
彼は自分の意思で北条の情報屋に転身した。
その理由を、決して彼は生涯
明かす事は無いだろう。

「ジョーさん」
「…ん?」
「これはアッシの勘なんだが…
 このヤマ、どうも臭うんだよ」
「臭う?」
「荒れるね、かなり。
 気を付けなよ」
「…はい、解りました」

トクさんと別れてからも
北条の脳裏には『花火』の単語が離れなかった。

「花火…爆弾。
 時限爆弾でも仕掛けるって事、か?」

彼は険しい目で空を見上げる。
雲の切れ間に覗く太陽が
弱々しい光を放っていた。

「だとしてもだ。
 俺達が絶対阻止してやる」

北条は徐に煙草を取り出し、
それを咥えると署に足を向けて歩き出した。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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