Act・6-2

NSM series Side・S

謎の『無言電話』騒動から1ヵ月後。
平尾がなにやらソワソワしながら
カレンダーと睨めっこをしている。

「何か予定でも入ってるんですか?」
立花の問い掛けには直接答えず
怪しげにニヤニヤと笑みを浮かべるだけだ。

「デート…かな?」
「一時帰国」
「あぁ、成程ね…」
「?」

「コウ。噂の彼女だよ。
 ホラ、靴と服を態々アメリカから
 プレゼントして来た…」
「携帯電話もね」

「あぁ…由美子さんですか」
立花は漸く合点が行ったらしい。

「でもジョー先輩?
 彼女の一時帰国の件、
 よく知ってましたね……」
「この間呑みに行った時
 散々惚気られたからね」

「因みにジョー君、
 それは…何時間、かな?」
「晩の8時から呑んで…
 翌朝の6時迄だったから……」
「そんなに呑んでたんですかっ?!」
「…まぁ、殆ど俺ばっかり呑んでたけどさ。
 然も水割りだったし」
「コイツ、日に因っては
 全然酔わないらしいからな。
 酒が勿体ねぇっつーの」

鳩村のボヤキに北条は渋い顔をしている。
確かに勿体無い呑み方は得意だからだ。
自慢にはならないだろうが。

「しかし…トータル10時間
 延々惚気話聞かされてたのかよ。
 或る意味、地獄だぜ」
「大将さんも彼女が出来れば
 一兵さんの気持ちが解りますよ」
「あぁ、どうもっ!!」

今度は山県が臍を曲げた。

「で、何時頃なんですか?
 由美子さんの帰国」
「…12月の下旬、だったかな?」
「クリスマスはさぞ
 楽しいものになるんでしょうなぁ~
 平尾君は…」

「寂しい野郎は
 『シングル』ベル歌って
 ケーキでも食ってろよ、ハト」
「お前は親父さんの手伝いするのか?」
「…宿直だ!」
「嘘吐け。
 おい、当日は誰も宿直替わるなよ」
「ハトォ~~~~~!!」

ワイワイと賑やかな先輩達を見守りながら
立花はふと
まだ見ぬ由美子の姿を思い描いていた。

『どんな女性(ひと)なんだろう?
 興味有るな、あの一兵さんの彼女だし…』

* * * * * *

『平尾さん、最近元気にしてる?』
「あぁ、元気だよ」
『でも…東京は色々事件が多くて
 大変でしょう?
 心配だわ……』

由美子は此方の時間帯を気にしながら
電話を掛けて来てくれる。
その心使いがとても嬉しい。

「物騒なのは何処も同じになってきたよ。
 有り難くない世の中だ」
『本当よね…』
「あ、そうだ。
 由美子さんが帰国する時は
 必ず迎えに行くからね」
『本当? でも、無理はしないで』
「無理じゃないよ。
 事件さえなければね」
『そうね。事件も何も無くて
 貴方が元気でいられます様にって
 私、毎日お祈りしてるわ』

思えば、この優しさに守られて来た気がする。
付き合い始めた頃よりも強く
彼女を守りたいと願う気持ち。
今まで感じた事の無い程強い、この気持ちは。

『平尾さん?』
「え? あぁ、御免ね。
 つい…考え事に耽っちゃった」
『余り考え過ぎないで下さいね。
 そうそう。
 私、帰国したら貴方の職場に行って
 皆さんにご挨拶したいんですけど…』
「え、挨拶?」
『ちゃんと皆さんに覚えて貰いますからね。
 私が平尾 一兵さんの彼女だって』
「…ははは、参ったなぁ~」

平尾は少し困った感じの笑顔を浮かべていた。
浮気封じ、だろうか。
素晴らしきは彼女の直感…。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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