Act・6-4

NSM series Side・S

「寒くなったな」

鳩村はふと呟きながら、夜空を見上げた。
薄い雲の狭間に白い月が輝いている。

「…三日月なのに、明るいな」
「そうですね」

彼の隣には立花、
そして少し離れて北条が居る。

大門 圭介の墓参りでの帰り道、
随分と日が暮れるのが早くなったと
3人が3人共、しみじみと実感している。

「ジョー」
「はい?」
「この後、どうするんだ?」
「今日は真っ直ぐ家に帰りますよ」
「呑まずにか?」
「えぇ、久々の早番だし」

「じゃあ家迄送りますよ、ジョー先輩」
「歩いて帰るよ」
「距離有るじゃないですか、家迄って…」
「署迄戻るにしても
 此処からじゃかなり距離があるよな…」
「大丈夫。心配御無用」
「ジョー……」

「体が鈍ってるんだ。
 トレーニングがてら、
 夜道を楽しみながら帰るとするよ」

北条はジャンパーの襟を直すと
フッと笑みを浮かべた。
最近よく見せる様になった柔らかな微笑。

「じゃあ、お疲れ様」
「あ、あぁ……」
「お疲れ様です、先輩…」

しっかりとした足取りで去って行く北条の背中を
鳩村は何も言わずにジッと見つめている。

「…ハトさん?」
「ん?」
「どうしたんですか?
 何度か呼び掛けたんですけど…」
「そうか…。それは済まん」
「何か、悩み事でも?」
「…いや、何でも無いよ」
「そうですか…」

月明かりに照らされる背中が
微かに重なって見えた。
自分の目指していた、あの背中に。

認めたくない。
だが、それを全て否定出来ない。
何故…?

「…俺じゃない。
 アイツがって意味なのかな…」
「?」
「つまらん独り言だ。
 気にするな、コウ」
「…はい」

鳩村の横顔は何故かとても悲しげで
立花は言葉とは逆に
それが気になって仕方が無かった。

* * * * * *

あの時。

誰よりも叫び、誰よりも泣いた筈だった。
切り裂かれる様な心の痛みは
今も尚、時折顔を出しては
ズキズキと思い出したかの様に痛みを与える。

忘れられる訳が無い。
だからこそ
誰よりも仕事に専念して来た。
犯罪を撲滅する為に走り回った。

悲しんでいる暇が有る位なら
一歩でもあの人物に近付く為に。
誰よりも、あの人の為に。

何処かでそう思っていた。
『秘密』を知る迄は。

「…何かな、打ちのめされた気分だよ」

誰も居ない駐車場。
冷えた相棒に向かい、
そっと声を掛けてみる。

「解らないもんだな。
 人も、未来も…」

相棒は何も語らないが
血の通わない筈のその部分が
ほんのり温かく感じる。

「共感してくれてるのか、カタナ?」

鳩村の言葉に少しだけ明るさが戻る。

「久々に…走るか。
 今日は綺麗な月夜だぜ。
 お前に見せてやりたいんだ」

慣れた動作でヘルメットを被ると
鳩村はカタナに跨り
夜の街へと繰り出して行った。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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