Act・6-5

NSM series Side・S

それは、大晦日の日の事であった。

クリスマス迄には帰国したいと
言っていた由美子だったが
直前に飛行機がトラブルを起こした為
結局は間に合わなかった。

帰国後も何かと忙しく、
漸く時間が取れると思ったのが30日。

「でさ、宿直なんだけど…」

大晦日に宿直当番が当たっていた平尾は
駄目元で北条に懇談してみた。

「良いっすよ」
「え? 本当に?」
「えぇ。何も予定無いし」

北条はフッと笑みを浮かべて
言葉を続ける。

「プロポーズ、するんでしょ?」
「…ジョー君?」
「ま、頑張って」
「……」

随分と気の早い、と言いたい所だが
平尾自身も何かしらの覚悟は持っていた。

先ずは彼女に会う。
そして、久々のデートを楽しむ。

高望みはしないつもりだが、
やはり気になるのは互いの将来。
女性なら一入だろう。

「埋め合わせは必ずするから」
平尾は少し頬を朱に染めると
自分の机に戻って行った。

* * * * * *

「被災地ボランティア派遣っ?!」

由美子から告げられた言葉に
平尾は思わず大声を上げてしまった。

此処は喫茶店内の一角。
怪訝そうな他の客や店員の視線に気付き、
慌てて口を押さえ、俯く。

暫しの沈黙。

「えぇ…」
「どうして又…?」
「前から、考えては…いたんです」

由美子は静かに語り出す。
過去を思い出しながら。

「私…養女だったじゃないですか。
 運が良く今の両親と出会ったけど、
 世界には親を奪われ、
 それでも精一杯生きてる子供達が
 まだまだ沢山居るんです」
「……うん」

「ずっと赴任する訳じゃないんです。
 2年契約で…」
「……うん」

「私…留学して、世界を知って…。
 何か役に立てる事がしたいって…
 ずっと考えていました」
「……うん」

「私が出来る事なんて微々たるものですけど…
 でも、私……」
「……」

由美子は口を噤んだ。
平尾にしてみれば突然の事で
きっと呆れられたかも知れない。
彼の返事を聞いて、そう思っていた。

「…良いんじゃないかな」
「平尾…さん?」

彼女の考えに反して
平尾は優しい笑みを浮かべていた。

「見つけたんだね。
 漸く、自分の目指すものを」
「…はい」

「君のご両親も、僕も…
 君の意思を嬉しく感じてるよ。
 漸く君は君の人生の目標を見つけたんだから」

「平尾さん……。
 でも、御免なさい…」
「…どうして?」
「2年は…長過ぎますよね?
 その……」
「今迄は4年間待ってたんだから
 今度はその半分でしょ?
 大した事無いよ」

平尾は彼女を意思を尊重したいと願った。
例え何年掛かろうとも、
彼女がそれでも自分を想ってくれるのなら。

「被災地への赴任だから、
 身の安全だけはちゃんと確保するんだよ。
 心配なのはそれだけ。
 大丈夫だよ、君なら…」

由美子にとっては何よりも換え難い
平尾からの温かいメッセージ。
涙を流しながら、彼女は頷いていた。

「必ず…夢を果たして、
 貴方の元に帰りますね……」
「待ってるからね、いつまでも」

2人は固い指切りを交わした。
互いの無事と、成功を祈って。
そして…再会を願って。

* * * * * *

一方その頃。

「見合いっ?!」

山県は素っ頓狂な声を上げて
父親の顔を見上げた。

「お…お父様?
 幾ら何でもそんな急に……」
「ヨセフ。お前ももういい年なのです。
 お相手の女性は外国暮らしも長く、
 主の教えを幼き頃から沢山学ばれ……」

山県は馬の耳に念仏状態で
父親の話を聞いていた。

見合い、そして結婚。
コレは暗に『跡を継げ』と云う圧力である。
必然的に刑事は続けられない。

『拙い…。非常に拙い……』

彼はどうやってこの事態を回避するか
脳をフル回転させて考えていた。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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