「誰からです、班長?」
「フリーの記者だそうだ。
昔は毎朝新聞に勤めてたとか何とか…。
お前、何かやらかしたのか?」
「…まさか!」
鳩村は苦虫を潰した様な顔をしている。
「仕方がねぇな。
気が乗らないが、行ってみるか…」
「そうしてくれ。
ブン屋はさっさと追っ払わないと
後々で響いてくる」
「解りました」
渋々刑事部屋を後にする彼の背中を見つめながら
小鳥遊は何故か思案深げな表情を浮かべていた。
「元毎朝で…今はフリーライターの…
菊池さん、ねぇ……」
手渡された名刺をじっと見つめながら
鳩村は更に言葉を続ける。
「ブン屋さんが態々、俺を御指名とはね。
一体何が狙いなんだ、アンタ?」
「そいつは手厳しい一言だ」
菊池は笑いながら顎の無精髭を盛んに触っている。
「西部署の鳩村刑事と云えば、
この世界では有名人ですからね。
知らない奴はモグリですよ」
「…そりゃどうも」
「実はですね。
この業界も色々とネタ不足で
正直困ってるんですよ」
「ふ~ん。それで?」
「つれないなぁ~、鳩村さんは!」
この男、初対面だと云うのに
図々しいまでの馴れ馴れしさ。
鳩村は正直不愉快だった。
どうやって話をぶった斬ってやろうか、
署から追い出してやろうか、
そんな事ばかりを考えていた。
「トクダネが有れば
是非、私に流して貰えませんかね?
なぁ~に、損はさせませんよ」
「…有れば、な」
「宜しくお願いしますよ」
その瞬間、菊池が見せた不敵な笑みが
何故か鳩村の心に強く残った。
意味深な、後味の悪い笑み。
だが彼は敢えて言及する事無く
菊池の名刺を無言で受け取るに留めた。
「今日は非番だってね。
隆から聞いたよ」
或るTV局近くの喫茶店内。
立花は其処で坂上と会っていた。
「相談相手は、俺で良い訳?
隆じゃなくて」
「兄貴、撮影中でしょ?」
「うん。まぁ、そうだけどさ…」
「アーチと、話がしたくて…」
「成程ね…。
あ、注文お願い!
モカとアールグレイを1つずつ」
坂上は慣れた様子でウエイトレスに注文する。
彼女の方も坂上を良く知っている様で
にこやかに微笑むと厨房へと向かった。
「此処のアールグレイはかなりイけるんだぜ」
そう言って軽くウインクする。
この辺は兄、隆と良く似た仕草だと思う。
「アーチは、モカ?」
「そう。此処ではいつもモカを飲んでる。
拘りなんだよな」
「へぇ…」
「で?」
坂上はスッと話を切り替えて来た。
「何が遭った?
隆も、お前が最近元気無いって心配してる」
「…実は」
立花はゆっくりとだが、
これ迄の経緯を簡潔に判り易く説明し始めた。
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