時代外れの怪盗、その名も『S-R』。
正体すらも掴ませない『S-R』に
警視庁は業を煮やしている様子だ。
「面白半分に書いちゃって、まぁ…」
平尾は呆れながら、読み終えた新聞を折り畳む。
「面白いネタが無いもんだから
警察をイビってんだよ」
「大将も言うよね~」
「だって、その通りだろう?」
見方に因ればその通りかも知れない。
だが、市民はどう見ているだろうか。
「『怪盗』って書いてあるけどさ」
「ん? どうした、ジョー?」
「この記事読んでると…
やってる事は、
まるで『ねずみ小僧』だよな」
「……」
「何、大将? そんな可笑しな顔して」
「お前は何時の時代の人間だ?」
「…昭和」
「もぅえぇわ……」
山県は呆れたまま、自分の席に戻る。
そんな彼を苦笑しながらも
優しい眼差しで見守る北条。
「平和ですね、ウチは」
立花の言葉に、鳩村は静かに頷く。
この時点ではまだ『他人事』で済んだ。
だが、彼等も刑事。
現実はそう甘くは無いのだった。
木暮は苦虫を潰した様な表情を浮かべながら
静かに課長室を後にする。
「課長?」
「あぁ、班長…」
「どうされたんですか?」
「いやぁ…」
木暮の表情は相変わらず重い。
又 本庁から無理難題が来たのかと
小鳥遊は何となく察した。
「例の『怪盗S-R』事件な。
ウチも担当する事になったんだよ」
「…あれ、ですか?」
「そう、あれ」
「……」
流石の小鳥遊も言葉が続かない。
「気が進まんね。
奴が狙うターゲットは皆 曰く付きだ。
悪党の悪事を公にする為に
態々盗みを働いているに過ぎない」
「結果、そうですね…」
「だがな、班長」
木暮はフッと表情を変えた。
何か有りげな、悪戯小僧の瞳。
「本庁を動かして来たと云う事は…だ。
それなりの奴が『S-R』の存在を
疎ましく思っている証拠にもなる」
「成程、確かに…」
小鳥遊も何かを察した様だ。
思わず苦笑を浮かべた。
「解りました。
皆には自分から話しておきます」
「宜しく頼むよ」
「はい」
小鳥遊は一礼すると刑事部屋へと入って行く。
その姿を見送りながら
木暮はそっと独り言を呟いた。
「俺の考えを見通すとは、
班長もなかなかやりますな」
小鳥遊から詳細を聞いたその日の晩。
立花は一人、寮近くの公園に居た。
「気乗りしないなぁ…」
確かに盗みは犯罪だが、
その行為によって
か弱き市民が救われているのも事実。
北条が語った『ねずみ小僧』も
満更間違ってはいない。
その『S-R』を逮捕する為に
小鳥遊班も動かなくてはいけないのだ。
「気乗りはしないけど、
仕事は仕事だもんな…」
大きな溜息を一つ吐き、
立花は寮に戻ろうと歩を進めた。
その時だった。
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