Act・6-8

NSM series Side・S

クレジットカードの盗難事件が
都内23区全域で多発している。
引っ切り無しに掛かる被害届に
電話線もパンク寸前だ。

「これだけの数が一気にって…
 何かの組織でも動き出したか?」

鳩村の言葉を聞きながら
立花は数日前の事を思い出していた。

* * * * * *

その青年と出会ったのは
独身寮前の公園。
夜も更けたその場で
青年は数人の若者に取り囲まれていた。

『因縁でも付けられたのかな?』

立花は迷う事無く
その集団の輪に飛び込んで行った。

色白で細身の青年の目が
真っ直ぐに彼を見つめて来た。
綺麗なブルーグレーの瞳。

不思議な事に、
その瞳には恐れや恐怖の色は無かった。

「此処で何をしてるんだ?」
「あぁ~ん?
 お前にゃ関係ねぇだろうが!」
「1人対多数じゃ
 喧嘩でもフェアじゃないよな」

若者達のギラギラとした視線が一斉に
青年から立花に移った。

「巷を騒がす暴走族って
 もしかしてお前達の事か?」
「何だ、テメェ?
 さっきからマッポみてぇな事ばかり
 抜かしやがって!」
「警察だ」

立花は胸ポケットから手帳を取り出すと
それを前に突き出し、
集団を激しく睨みつける。

数の多さを有利と見たか
相手はそれでも怯まない。

「学習能力の欠落は
 後で痛いしっぺ返しを喰らうぞ」

拳を振り上げ、襲い掛かる若者の腕を難なく掴むと
立花はそのまま自然に捻り上げる。
相手の勢いを利用しただけだが
受けた側は相当に痛い。

「早くギブアップするんだな。
 このままだと腕の骨が折れるぞ」

どうやら彼に襲い掛かって来た若者こそが
この集団のリーダー格らしい。
その男が目の前で簡単にやられる姿を見て
他の若者達は少しずつ怯み始める。

立花はその様子を一瞥し、
再度警告を促した。

「ギブアップするんだな?」
「…くそったれ」

悪態を吐いても痛みには勝てず。
集団はそのまま尻尾を巻いて
逃げ去っていった。

* * * * * *

「怪我は無かったかい?」

一段落してから
立花は青年に優しく声を掛けた。

「大丈夫です。有難う」
「そう、良かった」

立花は本当に嬉しそうな表情を浮かべる。

「この辺も治安が悪くなったな。
 何か遭ったら直ぐに交番か警察署に駆け込んで」
「はい…、あの……」
「ん? 何だい?」

青年はじっと立花を見つめている。
その瞳が妙に印象的だった。

「刑事さん、なんですよね?
 何か遭った時、
 刑事さんにお願いしても良いですか?」
「自分は構わないよ」

立花はそう言うと、
自身の警察手帳のメモ部分に
連絡先を明記して彼に渡した。

「西部署の立花って言えば
 通じると思うから」
「立花さん。
 有難う御座います」
「じゃあ、道中気を付けて」
「はい」

立花は青年と別れ、
そのまま独身寮へと姿を消した。
残ったのは青年、唯一人。

「西部署の立花刑事。
 そうか、小鳥遊班の最年少メンバー」

青年は静かに呟くと
丁寧にメモの切れ端を胸ポケットに収めた。

「借りは返しますよ。
 僕だって義賊の端くれだから」

青年はそう言うと
嬉しそうに携帯電話を取り出す。

「あぁ、僕。
 久々に楽しい仕事がしたいんだ。
 西部署の小鳥遊班が今追ってる事件、
 何件かピックアップしてよ」

立花の知らない所で
偽クレジットカード盗難事件は発生していた。

怪盗『S-R』からのプレゼントと云う形で。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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