Act・6-9

NSM series Side・S

管轄の巡査が何者かに
所持品を奪われる事件が起こった。
奪われた物が、又 都合の悪い事に
『手錠』であった。

拳銃や警棒には目を向けず
何故手錠だったのか。
犯人の意図が読めない。

「良い使い道は浮かばんな」

山県は調査書に目を通しながら
苦々しく吐き捨てた。

「子供が使って良い玩具じゃねぇんだ。
 このクソ忙しい時期に
 盗難なんてやってるんじゃねぇよ」
「強盗…では無かったんだよね、大将?」
「あぁ、交番内では無くて
 パトロール中だってよ」
「…1人で?」

平尾は一通り話を聞いてから
何故か腕組みをして悩み始めた。

「どうした、一兵?」
「おかしいと思わない?」
「何が?」
「被害に遭った巡査。
 どうして1人でパトロールを?」
「…そう言えば」
「今は最低でも2人1組体制だよ?」
「…だよな」

山県との遣り取りで、
平尾も自身への問い掛けを強める。
そもそも、この事件の発端は?

「今、聞き込みは?」
「ハトとコウが向かってる」
「ジョーは?」
「別件を追ってる」
「別件?」
「事件は1つじゃないんだよな…」

同時進行している複数の事件。
その内、ホワイトボードに残されている
未解決の事件の箇条書き。

「穏やかに年末年始を送れた験しがねぇ」

山県のボヤキに対し、平尾は静かに頷いた。

* * * * * *

奪われた手錠は凡そ1週間後、
新宿の雑居ビルの1階にて発見された。
指紋を検出するも、犯人に結び付かず
その目的も掴めないままだった。

「このビルってさ」
「ん、どうしたの?」

報告書を片手に北条が呟いている。
平尾はすぐさま問い掛けた。

「俺がこの間、見に行った場所だ」
「…見に行ったって、何が?」
「一兵さん、覚えてる?
 ウチの課に掛かって来た悪戯電話」
「…あぁ。ハトさんが切れた奴ね」
「それと、関連してる」
「はい?」

まだ確定は出来ていないが、と前置きし
北条は自分が情報屋トクさんから得た内容を
平尾に説明し始めた。

「一寸待てよ、ジョー。
 もしその考えが当たってるとしたら…」
「犯人の狙いは『手錠』じゃない。
 持っていた巡査の所属する組織」
「…西部署か」

大門を指名して来た電話の主。
『彼』が再び動き出したのだろうか。
平尾の表情が強張っていく。

「ジョー」
「ん?」
「ハトさん達にはまだ伏せてくれ。
 解ったね?」
「勿論」

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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