Act・6-10

NSM series Side・S

ある犯人の追跡をしていたのだが
不注意により逃がしてしまった。
自分でも首を傾げる。
ほんの一瞬に生まれた『油断』を
巧くすり抜けられた様だ。

「らしくねぇ追跡すんな、ハト」
「らしくねぇって…何だよ?」
「お前らしくねぇっての」

山県の言葉に幾分かカチンと来たらしく
鳩村はそのまま助手席を降りる。

「何だってんだ?」
「俺は少し一人になりたいの」
「そ。じゃ、勝手に」

山県はエンジンを掛け直すと
そのまま彼を置いて街中へと消える。
小さくなっていく黒パトを見守る様にして
鳩村はボンヤリと立っていた。

すると背後から。
ポン

「?」
「何してんだ、でくの棒みたいに」
「…隆」

高崎だった。
その背後には数人の男が
何やら慌しく動き回っている。

「ロケ中?」
「そ。今は休憩中」

涼しい顔を浮かべながら
高崎は黒パトの向かった先を見つめた。

「喧嘩?」
「まさか…」
「……」

高崎の表情が一瞬だが強張った。
不意に踵を返し、
慌しい人の影に戻っていく。

数分後。

「アーチに許可取って来た」
「ん?」
「場所変えようぜ」

高崎の雰囲気に
何かを感じ取ったのか
鳩村は黙って頷いた。

* * * * * *

「何焦ってんの、お前?」

開口一番に鋭いジャブが飛んで来た。
この辺りは山県と同じで加減が無い。

「別に…」
「焦ってんじゃねぇか」
「隆……」
「そう云う奴を散々見てるからな、俺は」

立花の事だと直ぐに察した。
だが、口は挟まない。

「お前の今の色は何色だ?」
「色? 下着の色でも聞きたいの?」
「ヤロウの物を聞いても面白くないし
 元々俺にそんな趣味は無い」
「…だよな」

「限り無く黒に近い『灰色』って所?」

不敵な笑みを浮かべながら
高崎は言葉を続けた。

「或いは…限り無く透明。
 要するに周りが見えない色だ」
「……」
「北条の事を悪くは言えんな」
「どうして其処でジョーの名前が出てくる?」

鳩村は不意に顔を顰めた。
しかしどうやらそれは
高崎の思う壺だったらしい。

「北条は自分の『色』を取り戻した。
 だが、お前はどうだ?」
「何?」
「お前は大門さんじゃない。
 大門さんには『成れない』んだ」
「……」
「頭では理解してても
 気持ちは別物だって事さ。
 違うか?」
「…違わないね、その通りだ」

鳩村は心底嫌そうに吐き捨てた。
苛立ちを和らげようと煙草を取り出す。

「問い質してみな。
 テメェの色は何色だ?ってね」
「…隆?」
「お前なら、見つけ出せるんじゃねぇの?」

腕時計をチラッと覗くと
そろそろ時間が迫っていたらしい。

「帰るわ」
「おぉ…」

短い挨拶の中に様々な思いが巡る。
紫煙の向こうに消える高崎の姿に
鳩村は懐かしい面影を見つけた。

「団長…」

その姿を追い求めていた自分。
いつか、決別する時が来るのだろうか。
ただ、追い掛けるだけの日々に。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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