Act・7-3

NSM series Side・S

「はい、上がり。悪いね、隆!」

 軽快な口調で坂上はトランプのペアを置いた。

「もうこれで5回連続。
 どうしたよ、調子出ないじゃない…」
「表情に出てるか?」
「うん。余裕が無いって感じ」
「…直ぐにバレる感じか?」
「いや、対外的にはポーカーフェイス。
 俺が判るのは付き合いの長さから」
「なら安心した」

高崎が何を思い悩んでいるのかは
言わずとも解る。
それがマネージャーと云う者だ。

「功の事なら心配しなさんな。
 アイツは漸く『自分』を見出した。
 お前の弟、ってだけじゃない
 自分自身って存在をね」
「まぁ…功なら大丈夫だろう。
 あぁ見えて芯はシッカリしてる」
「お前の弟だからね」

口では『心配無い』と言っても
どうしてだか、心は晴れない。

それも、無理も無いかも知れない。

立花にとって高崎の存在は大きい。
それは高崎自身にとってもである。
最も近しい存在が離れていきそうな予感。
それが、心を重くしているのだろう。

「歓迎してこそ、『兄貴』なのにな」
「そう出来ないのも『兄貴』だからこそ。
 違うか?」
「お前は本当に出来た親友だよ」

高崎はフッと笑みを漏らしたが
その何とも言えない寂しげな瞳に
坂上も何かを感じ取っていた。

* * * * * *

非番明けの山県が
妙に暗い表情で署に現れた。
事前に「見合いをする」とは聞いていたが
どう考えても仏滅顔なのである。

「何だ? 相手はそんなに強烈だったのか?」
「……」
「何とか返事してくれよ、大将…」

鳩村は心配そうに何度も声を掛けるが
山県は石の様に固まったまま
何やらブツブツと唱えている。

「念仏?」
「いや、大将はクリスチャンだから…」
「どうしたんですか、大将さん?」

耳を澄ませてみると、
微かに聞こえたのは『ハートのA』と云う単語。

「ハートのAって…トランプ?」
「キャンディーズのヒット曲か何か?」
「古いよ、ジョー…」
「何でまたトランプが…?」

その場に居る全員が首を傾げていると
不意に電話が鳴った。
守衛からである。

「大将に面会希望。女性だって」

電話を取った平尾の言葉に
山県は激しく動揺すると、
ギクシャクさせながら刑事部屋を後にした。

「何じゃアレは?」

鳩村はアングリと口を開けたまま
その姿を見送る事しか出来なかった。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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