Act・7-10

NSM series Side・S

「少しは成長した様だな」

苦笑を浮かべる小鳥遊だが
目は全く笑っていない。
手にした始末書と目の前の男を
交互に見つめながら
何とも言えない表情を浮かべている。

「犯人追跡は良いが、
 側溝に落とせ、とは命じてなかったぞ」
「…済みません」
「後輩に助けられてどうする」
「……」
「まぁ、終わった事は仕方が無い。
 ホシも大した怪我にはならなかった訳だし」
「アレ位で大袈裟なんすよ」
「ジョー」
「…はい」
「お前、1週間自宅謹慎」
「え…っ? アレ位で?」

提出された始末書を丁寧に片付けながら
小鳥遊は小さく咳払いする。

「1週間の猶予を与える。
 その意味くらい判るだろうが」
「班長…」
「目星は立ってるのか?」
「多少は…」
「なら、1週間で何とかしろ」

小鳥遊は北条が一人で
挑戦状を叩きつけて来た相手を
探している事を見通していた。
他の捜査と平行して出来るほど
相手がマヌケではない事も判っている。

そして、時間を掛ければ掛けるほど
展開が向こうに有利に働く事も。

「今から謹慎期間に入ります」

北条はそう言うと
凡そ台詞と似つかわしくない位に
微笑を浮かべて部屋を後にした。

* * * * * *

名目上の謹慎とは言え、
仲間に迷惑を掛ける事に間違いは無い。
北条は刑事部屋に寄って
謹慎を受けた事だけは報告しようと
エントランスから戻ろうとした。

その時。

「あ、御免」

肩が軽く触れるくらいの衝突。
瞬間、目が合った相手。

無精髭とボサボサの髪。
ヨレヨレの背広。
署に入り浸るブン屋の一人だろうか。

だが、違和感が有った。
間違い無くその男は
自分に対して敵意を見せた。
凍り付く様な鋭い視線。

『何処かで会ったか?
 面識が有るかどうか…
 定かじゃないんだが』

北条の中に芽生える
釈然としない気持ち。
その原因を探ろうにも
手掛かりすら見出せない。

男は小さく頭を垂れると
そのまま署を後にした。

「あれ、ジョー?」
「ハトさん…」
「お前、あのブン屋を知ってるのか?」
「あれ…ブン屋ですか?」
「知り合いじゃないのか」
「知りませんよ。
 誰ですか、あれ?」
「菊池って名前のフリーライター」
「菊池…?」

北条の脳裏に一瞬だけ
過去の映像がフラッシュバックする。
確か…あの男は…。

「そんな名前だっけ…?」
「ん?」
「いや…独り言」
「…そうか」

釈然としない原因。
微かだが北条には
それの尻尾が見えた気がした。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
Home Index ←Back Next→