Act・8-2

NSM series Side・S

「代々木公園に招かれた
 移動遊園地…ねぇ……」

資料室の一角で
北条は西條から渡された
例の事件報告書に目を通していた。

「事件が起こったのは…
 1年3ヶ月前。
 脅迫状が届いた先は…
 西部署、捜査3課……」

丁寧に書かれた文字を辿り
当時の自分の記憶と照らし合わせる。

「余り新聞沙汰にはならなかった筈だ。
 なっていたとしたら…
 俺の記憶に残っている筈。
 そして、脅迫状の受け取りが
 1課ではなく3課……」

西條は確か、
「小鳥遊もこの調書を探していた」
と言っていた。
何か遭ったからこそ
態々七曲署にまで出向いたのだ。

「3課の担当は…窃盗犯だろう?
 爆破脅迫なら1課に送る筈だ。
 態と1課を外したって事なんだろうか…」

当時の脅迫状には確かに
『観覧車を爆破する』
との記載が残っていた。
移動遊園地の施設は
常設して在る施設のそれとは
若干だが仕様が異なっている。

「何の意図で爆破を目論んだのか。
 それ以前に…」

資料にはその後の経緯が
ハッキリとは書かれていない。

「本当に爆弾は設置されていたのか?」

北条の疑問は其処に有った。
大事にならなかったのも
『爆弾など存在しなかった』
からではないか、と。

ならば、何の為に脅迫状を送ったのか。
そして、これだけの人員を割いて
捜査させたかった本当の理由は。

「今回の電話の件にしても…
 この事件と繋がっていると
 考えた方が素直なのかも知れない」

愉快犯の犯行かもしれない。
この後味の悪さは共通点が有る。
だが、それだけではないのだろう。
まだ何か引っ掛かりを見せる。

「その『何か』が尻尾でも見えれば
 ホシの足元に辿り着いたって事だ」

北条はそう呟くと資料と閉じた。
西條にこれを返し、伝言を頼むつもりだ。

「西條さん…。
 まだ『茶』に拘ってるかな…?」

先程までの遣り取りを不意に思い出し
北条は思わず吹き出してしまった。

* * * * * *

一方その頃。

刑事部屋の小鳥遊は
難しい表情を浮かべて
何かを見比べていた。

「この写真…ねぇ……」

部下が一人も居ない刑事部屋で
彼はずっとその状態だった。

「だとすれば、
 やはりターゲットは……」

徐に胸ポケットから
あの黒手袋を取り出した。

「先輩。来ましたよ。
 やはり…恐れていた事が起こった様です」

小鳥遊の表情は変わらない。
瞳には僅かだが
怒りの色さえ窺える。

「ホシの矛先は
 私やコウには向けられていない。
 ホシにしてみれば
 我々は『部外者』だとでも
 言いたいみたいですね…」

憤る気持ちを抑える事も無く。
今まで誰にも見せる事のなかった
小鳥遊のもう一つの姿が其処に在った。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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