Act・8-3

NSM series Side・S

「小鳥遊、お前の守りたいものは何だ?」
「守りたいもの、ですか…?」
「そうだ」
「色々有りますよ。
 家族、仲間、社会…」
「それ等を全て守れる自信は有るか?」
「え…?」
「正直、自分に全てを守れると言う自信は無い」
「先輩……」
「だが」
「…」
「どんな事が有っても守りたいと思っている」

嘗て『先輩』で在る男と交わした会話。
彼は「自信は無くとも守ってみせる」と
言い切っていた。
頭で考える前に行動に移す。
そんな彼らしい発言だと思っていた。

「貴方が守ろうとした存在は…
 結局、解らず仕舞いでしたが」

小鳥遊は写真をそっと片付ける。
今、余り部下には見られたくない。

「貴方の遺志を継ぐ者達は
 必死で貴方の後姿を追い駆けている。
 今も、尚…」

小鳥遊は静かに瞳を閉じ、両手を組んだ。

* * * * * *

七曲署を後にし、足は東部署の管轄へ。
其処で北条は白バイ時代に世話になった先輩と
偶然再会する事となった。

「お久しぶりです」
「お、元気そうじゃないか。
 一時はコッチに戻ってたんだって?」
「1年間だけですけどね。
 白バイ隊に戻れば良かった」
「よく言うよ。お前じゃ物足りないって」

先輩の隊員は苦笑を浮かべている。

「まぁ…色々と噂は聞いてたよ。
 正直、よく持ち直してくれたもんだ」
「周囲の御蔭ですって」
「そんな事は無いだろう?
 お前が努力家なのは俺がよく知ってる」

彼はそう言った直後、
不意に何かを思い出したらしい。

「そう言えば…」
「ん?」
「お前の白バイ時代の事を聞きに来た奴が居たな」
「え?」
「俺もな、変な感じはしたんだが
 特に隠し立てする事も無いから…」
「ソイツの名前、覚えてますか?」
「あぁ。名刺貰ったよ」

彼は自分の所持品を納めたポーチから
少し黄ばんだ名刺を取り出した。

「フリーライター、菊池 健一…」
「知ってる奴か、北条?」
「先輩。コイツが聞いてきたのは
 俺が白バイ隊に所属していた頃の話だけっすか?」
「…俺はそれ以外話せるネタを持ってないからな」
「成程……」

北条はふと、もう一人の
バイク搭乗者の事を思い出していた。
彼は白バイ隊出身ではないのだが
『もしかしたら』は考えられる。

「えっと…携帯電話、忘れてきたか」

相変わらず肝心な時には携帯していない。

「先輩、公衆電話…何処かに在りません?
 最近本当に電話ボックスを見かけなくて」
「携帯ぐらい所持しておけよ…」

先輩隊員は呆れながら
北条を最寄の電話ボックスまで案内する。

北条はその瞬間、感じ取った。
自分の背後で言動を伺う様に潜む影。

「どうした、ジョー?」
「いえ…何でも無いです」

今は振り返って影の正体を暴く訳にはいかない。
だからこそ、雰囲気を刻み込んだ。
何れ出会う事になるだろう。
その時の為に。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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