Act・8-6

NSM series Side・S

「巫山戯んなっ!!」

鳩村の怒号が刑事部屋に響き渡る。

「ジョーの奴、何様のつもりだ?
 もうあれから10日も経ってるんだぞッ!!」
「ハト…。
 少し落ち着け、な?」
「落ち付いてられるかッ!!
 このクソ忙しい時に3日も無断欠勤だぞっ!!」

「その件なんですが…」

恐る恐る立花が口を挟む。

「少しおかしいとは思いませんか、ハトさん?」
「…何がだ、コウ?」
「だって…考えてもみて下さい。
 以前の無気力状態だったジョー先輩、
 無断欠勤なんかしてました?」
「…無かったな、そう言えば」
「取り敢えずは来てたよね、ジョーの奴」
「……」

「そうなんですよ。
 元々先輩、欠勤する方じゃなかったから」
「休みボケが出たんじゃないのか?」
「ハト……」

「大将。俺はお前みたいに
 ジョーを庇う気はさらさら無いんだ」
「…もう一度言ってみろ、ハト」

山県の表情が途端に険しくなる。
隙有らば噛み付かんばかりの殺気。

「喧嘩してる場合じゃないだろう?」

一触即発状態の2人を平尾が牽制した。

「事故か事件に巻き込まれた
 可能性だってゼロじゃない」
「一兵…」
「僕は特定の誰かを庇って発言してる訳じゃない。
 事実を述べているだけだから」

平尾の口調は静かではあったが
何処か冷静で、尚且つ淡々としている。

「ジョーが秘密裏に動いてた事は
 此処に居る全員が感付いていたんだろう?
 でも、誰も止めなかったし口も挟まなかった」
「……」
「その結果に繋がったんだとしたら、
 責任はジョーに有るんじゃない。
 此処に居る全員の連帯責任だ」

鳩村は何か言いたそうにしていたが
その言葉が咽喉から先に出る事は無い。
無理矢理、飲み込む様にして押さえつけていた。

「ハトさん」

先程とは打って変わった優しい声。
平尾は、本当に悲しそうな表情を浮かべている。

「そんなに自分を追い詰めないでよ」
「一兵……」
「そうだな。俺にも当然責任が有る」
「大将…」
「そう云う事ですよ、ハトさん。
 本当は、心配してるだけなんですよね…」
「コウ……」
「皆、知ってます…。
 ハトさんが先輩を心配してるんだって事は」
「……」

鳩村は何ともバツが悪そうに視線を反らした。
すると、静かに刑事部屋の扉が開く。

「班長……」

立っていたのは小鳥遊だった。

「七曲署、そして東部署の白バイ隊詰所。
 ジョーの足取りが掴めているのはこの2箇所だ」
「班長…、何故……?」
「聞き込みを命じたのは私だからな」

小鳥遊の発言に、全員が黙り込む。
丁度その時、一本の電話が入った。

* * * * * *

『久しぶりだね』

ノイズの入った不快な機械音。
例の男である。
立花は何も答えず、
直ぐに鳩村へと受話器を渡した。

「もしもし…」
『あぁ、アンタか。えっと…』
「鳩村だ」
『そうそう、鳩村さん』
「今日は何の用だ?」
『忠告だよ』
「忠告?」
『そう、忠告』

男は上機嫌でケラケラと笑っている。
それだけでも充分神経に障った。

『警視庁の長官宛に面白い手紙が届いたよ』
「何…?」
『機会が有れば読ませてもらいなよ』
「…おいっ!」

電話は又、一方的に切れた。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
Home Index ←Back Next→