Act・8-7

NSM series Side・S

鳩村は一瞬躊躇いを見せた。
受話器を握り締めたまま、動かない。

「ハト…」
「…電話の、逆探は……」

小鳥遊の声を遮る様にして
立花に逆探知の結果を尋ねてみる。
結果は、判っていた。
恐らくは駄目だろう、と。

「駄目です…。
 相手も逆探を警戒したのか
 短めに通話を終わらせてますし…」
「敵さんも少しは知恵付けたのね」

山県は厭味を零しながら
素早く上着を取り、外へ向かおうとする。

「何処へ行く、大将?」
「ん?」
「長官への手紙は…」
「それはお前に任せるわ、ハト」
「?」
「俺、ジョーの足取りを追ってみる」

急を要するのは寧ろ先程の電話の内容であり
それに向けて話を詰めようとする矢先である。
鳩村の表情が見る見る険しくなった。

「長官宛に、とあれば
 ウチ以外でも動くんだろう?
 なら、ソッチに任せるさ」
「大将!」
「俺にとっちゃ、仲間の方が心配でな」

その時に山県が見せた視線。
激しい怒りを篭めたその目の力は
紛れも無く、あの男と同じもの。
そう、自分達を率いて来たあの男のそれと。

「何か有れば連絡寄越せ」
「それなら僕から送るよ」
「一兵がか? まぁ、良いけどよ」

鳩村は何も言えないまま。
拳を握り締め、奥歯をきつく噛み締めながら
山県を見送る事しか出来ずに居る。

最近、いつもそうだ。
言いたい事も言えず。
感情も表に出せず。
ずっと自分を押し殺してきた。

そうする事で均衡が保てると信じてきた。
それこそが、やがて上官になる自分の姿勢だと。
だが、本当にそれで良いのだろうか。

時々顔を出す、この激しい感情をどうすれば良いのか。
自分が自分で無くなる様な
渦巻きの様な心の流れ。
自分ではどうする事も出来ない。
自分自身の問題の筈なのに。

「ハトさん」

一兵の声に、漸く我を取り戻す。

「逆探は無理だったけど、
 犯人を追う事が出来ない訳じゃない。
 出来る事から始めていこうよ、ね」
「そうだな……」

小鳥遊は何も語らず、静かに様子を見守っていた。
先程から少しの動揺も見せないその姿に
立花は少し恐怖を感じ取る。

『余り多くを語る人では無いんだけど…
 でも、時々班長って…人が変わった様に
 冷たい態度を取っている様な…。
 俺の気の所為、なのかな…?』

* * * * * *

一方。

何とか北条の足取りを追っていた山県は
新橋駅周辺で聞き込みを行っていた。

「何時頃?」
「4日前の夕方です。女性と一緒に」
「どんな女性?」
「肩までの髪で、160cm位の背丈でした。
 それと…盛んにメモを取っておられましたね」
「メモ?」
「はい。それを見ながら女性に話し掛けておられまして…」

山県は必死に自分の記憶を手繰り寄せる。
が、北条の事である。
女性が接点、となると殆ど思い出せる事柄が無い。

「アイツと女の接点って…
 アコちゃんしか思い浮かばねぇっつーの…」

駅員に一礼し、山県は聞き込みの周辺を広げる事にした。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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