Act・8-8

NSM series Side・S

「山県刑事?」

新橋駅から品川駅に移動する際、
不意に背後から声を掛けられた。
西部署に所属する婦人警官だった。
二人一組で巡回パトロールをしている最中であろう。

「お、巡回? ご苦労さん」
「いえ…あの、お一人ですか?」
「俺?」
「はい…」
「うん。聞き込み中」
「そうですか……」

何か聞きたそうにしているが、
彼女等は何処かそれを敬遠している様にも見えた。

「俺が一人だから、不自然に見えた」
「え?」
「まぁ、いつもならGパンルックを連れてるからね」
「…北条刑事、お休みなんですよね。
 具合が悪いんですか?」

北条の様子を心配してくれているのだろう。
流石に他の課の人間に対して
彼の状況を細かく話す訳にも行かない。
現状が全く見えない今なら尚更だ。

「少し休んで、直ぐに戻ってくるから。
 心配しなくても大丈夫だって」
「お大事になさって下さいって…
 お伝え出来ますか?」
「あ、あぁ……」

山県には少し意外だった。
婦警に対して全く関心を示さない北条に反し、
彼女達は彼の事を結構気にしている。

『人気者じゃないの、北条君。
 こりゃ、早く探し出さないと拙いな』

山県は適当に彼女達に話を合わせながら
さっさと切り上げ、
何事も無かったかの様に聞き込みを再開した。

* * * * * *

両手両足を拘束されたままでは
正直、どうする事も出来なかった。
今日が何日なのか、それすらも判らない。

頭部に受けた衝撃も大きく、
目を開けているのも正直辛かった。

こんな目に遭いながらもよく無事で居るものだ。
つくづく、自分の頑丈さに感心する。

いや、違う。
守られているのだ。
こんな状況下でも、『彼女』が守ってくれている。
彼女が自分を延命してくれていたのだ。
怪我の手当ても早かったからこそ
これ以上症状が酷くならずに済んだのだろう。

拘束期間は然程長くは無かった筈だが。
体内時計が狂ってしまっているのだろう、
随分と長い時間が経過した様な気分だ。

「…てぇ……」
「口を開けばそればかりだな」
「お前が…殴ったんだろうが……。
 頭が割れる位まで殴りやがって…」
「それにしても丈夫だよな、アンタ」

胸元を掴まれ、顔を引き寄せられる。
酒臭い息が鼻腔に侵入し、気持ちが悪い。

「今頃、警視庁は大騒ぎだよ。
 何てったって、今日は…
 警視庁長官様宛に
 熱烈なラブレターが届いたんだから」
「何が…ラブレター、だよ。
 只の脅迫状だろうが…。
 御丁寧に指紋でも付けて送ったのか…?」
「電子メールって知ってる?
 時代遅れの刑事さん」
「…使わないから、知らねぇよ」

霞んだ視線の先に居る相手に対し
北条は気迫では負けず、悪態を吐いた。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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