Act・9-1

NSM series Side・S

スナックやパブが立ち並ぶ夜の繁華街。
居ても立ってもいられずに
刑事部屋を飛び出してから
もうかなりの時間が経過している。

「酷ぇ歌声」

店から漏れ聴こえてくる音に対し苦々しく呟く。

「まるで鼾だな。
 寝てから出せっての、そう云う音は」

寒さに少し身を屈め
鳩村は煙草を口にした。
少しでもこの寒さが和らげば。

隣から突然差し出されたライターの火に
思わず彼は驚いて手の先を見つめる。
まさか、そんな筈は。

「…コウ」

正体を確認し、思わず漏れた溜息。
折角自分を追って来てくれたであろう彼に対し
これでは余りにも失礼である。
謝罪のつもりで頭を立て、有り難く火を戴く。

「見付からないものだな。
 宛ても無く町を彷徨っても…」
「ハトさん…」
「居なくなってから、いつも気付かされる。
 失った存在が自分にとって
 どれだけ必要で大切だったのか、を…」

鳩村の視線が街の灯から夜空の星へと
静かに移動していく。

「それじゃ遅いんだよ…。
 失ってから後悔したって、もう…」
「ハトさん、先輩はまだ…」
「…解ってる」

声では返答するが、視線の動きは無い。

「手遅れなる前に見つけ出すさ」
「そうですよ…そうですよね。
 以前だって…」

立花は東京版切り裂きジャック事件を思い出していた。

「先輩、何か手を打ってくれてますよ。
 きっと、大丈夫です」
「…そうだな」

それまで硬い表情を浮かべていた鳩村の目元が
ほんの少しだけ、和らげになった。

* * * * * *

2人は手掛かりを求めて暫し街中を彷徨い
西部署へと戻ってきた。
これと言った収穫は無く、情報を再点検する為に。

刑事部屋に辿り着き、扉を開けようとしたら
不意に反対側からかなりの勢いで開いた。

「?」
「あ、ハトさん! 捜してたんだよ!!」
「何か遭ったのか? まさか…?」

一瞬、最悪の事態が脳裏を過ぎり
鳩村の表情が青褪める。

「これ、ジョーの手帳。
 彼女が届けてくれたんだけど…」
「ん? 彼女?」

平尾の肩越しに視線を送ると
ソファには何やら
思いつめた表情を浮かべた女性が居た。

「彼女に事情を聞きだそうとしても駄目だからね」
「どう云う意味だ?」
「話せないらしい。
 だから矢継ぎ早に質問をぶつけてもこうなっちゃう」
「こうなっちゃうって…まさか一兵さん?」
「大将がやっちゃった訳」
「……」
「僕が彼女から話を聞いてみるよ。
 話してくれれば…だけどさ」
「手帳には、何か書かれてたのか?」

鳩村の質問に対し、平尾は首を横に振る。

「残っていたのは血痕だけだ」
「…そうか」
「それでも、大きな前進ですよ」

項垂れる先輩2人を見かねて立花が口を挟む。

「全てはこれからです。
 先輩が残してくれた手掛かり、無駄には出来ません」
「そうだな…」
「勿論、その通りだよ」

鳩村と平尾は顔を見合わせ、
表情を引き締め直した。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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