Act・9-2

NSM series Side・S

立花はふと坂上に言われた事を思い出した。

『人は一人じゃ生きていけない。
 其処まで強い存在じゃない。
 だからこそ、無条件に求めるんだ。
 自分の『対』と成り得る存在を』

「対の存在…か」

自分以上に自分を見つめてくれる存在。
まるで鏡の様に互いを見つめ合い、
磨き合い、高め合って行く。

そう、それは正しく
『好敵手』と呼ぶに相応しい。

「ライバル…か」

確かに小鳥遊班に配属されてからというもの
自分が一番年下と云う事もあって
特に意識した事は無かった。

しかし、それは裏を返せば
「現状に甘え、成長を自ら止めてしまった」事に
繋がりはしないだろうか。

抜きつ抜かれつ。
そして時に助け合い、支え合って
自分の先輩達は今も尚
成長を続けている。

羨ましいとは感じていた。
だが、自らその輪に入ろうと
努力はしてきただろうか。
誰かが声を掛けてくれるまで
待っていた事は無かっただろうか。

それでは駄目なのだ。

ずっと傍に居てくれると信じ切っていた兄と親友。
彼等が共に自分とは違う世界へ向かって行った時、
このままではいけないと確かに感じた。
だが、それから何か大きな行動を取った記憶が無い。
何もしてこなかった、だから記憶が無いのだろう。

「俺は選ばれ、俺は選んだ。
 この道を。その世界を。
 だから俺は今、此処に居る」

憧れだった警察官。
尊敬していた父親。
良く見せてくれた太陽の様な笑顔を思い出し、
立花は胸の前でグッと拳を握り締めた。

* * * * * *

一方、平尾は先程からずっと
根気良く調書を取り続けていた。

どうしてこの手帳を手に入れたのか。
其処から突破口を見出そうとしていた。

彼女の名前は吉岡 沙耶。
兄と二人暮らしである事が判った。
彼女の名前は事前に北条から聞かされた事は無く
何の面識が有ったのだろうか、と首を捻る。

『1年前、喫茶店立て篭もり事件が有りました』

彼女は自身を言い聞かせる様に背筋を伸ばし、
ゆっくりと紙に綴り始めた。

「立て篭もり…?」

『北条さんは偶然、その事件に巻き込まれました』

「変だな。ジョーからはそんな事件の話……」

平尾がそう言い掛けると
背後に居た山県は何を思ったのか、
急いで課長室へと駆け出して行った。

「どうしたんだ、大将?
 ま、まぁ…大将の事は一先ず置いておこう…」

気になりはしたが、
今は少しでも情報を集めておきたかった。
一刻も早く、行方不明となった
北条の居場所を掴む為にも。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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