Act・9-3

NSM series Side・S

「俺が初めて団長さんに会ったのは…
 もう、6年程前になるか……」

吉岡の独り言。

この部屋で二人きりになると、
決まってこの男は
大門 圭介との出会いを振り返っている。

どういう心境なのかまでは不明だか。

「小物屋で万引きしようとした時、
 やられたんだよな…」
「…良かったんじゃねぇの?
 未遂だった訳だし」
「そう、だな…。
 未然に食い止めてもらって、あれからだ…。
 あの人に憧れて、西部署に通う内に、
 アンタに…出会った」
「…そうか」

「見てるしか出来なかったからな。
 アンタは俺に気付いて無かったろうし」
「……」
「良いんだよ、それは…もう……」
「吉岡…」
「有難うな、北条さん。沙耶を…逃がしてくれて」
「……」
「俺は、自分のケツを拭くよ。
 テメェで始末を付ける」
「…鳩村刑事を、どうしても……?」
「あぁ……」
「…吉岡」
「隙を作ってアンタを逃がすからさ。
 それ迄は…大人しくしててくれよ」
「……」

北条は目を閉じたまま、何も語らない。
吉岡の背後に存在し、見え隠れするものの大きさに
正直どうして良いのか判らなかったのだ。

『必ず、何かが見えて来る筈だ。
 それ迄は…待機しておこう。
 いつでも…動ける様に……』

* * * * * *

カタナを整備しながら、
鳩村は静かに煙草を燻らせていた。

北条が行方不明になったと知った時、
嫌な予感が直ぐに脳裏を過ぎった。
それを頭から振り落としたくて、消したくて、
心にも無い暴言を吐いて誤魔化そうとまでした。

長年の付き合いがある戦友だからこそ、
失いたくないという気持ちも強い。
だが、恐らくはそんな単純なものではないだろう。

「重なって見える…」

以前から時折感じていた。
北条に重なって見える、大門の影。

どんなに自分が反発しようとも
2人の真実は何も変わりなどしないのに。
只の我侭や僻みでしかない事も
ちゃんと理解出来ている筈なのに。

いつの間にか自分を抜いて成長していた後輩に
切なさと寂しさを感じていただけだ。

「俺は…どうあるべきか。なぁ…?」

カタナは何も答えない。
だが、無言なれど鳩村の苦しみは理解している。
彼も又、鳩村にとっては長年の相棒なのだから。

「ターゲットは…誰だ?
 それさえ判れば、或いは……」

また相手の正体は掴めていない。
しかし、それは鳩村にとって
何の脅しにもならない。
静かに怒りを燃やす鳩村の怖さを
当然、まだ相手は知りもしていないだろう。

「必ず…落とし前を着けてやる」

口元から乱暴にタバコを吐き出すと
鳩村を爪先で思い切りそれを踏み潰した。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
Home Index ←Back Next→