Act・9-4

NSM series Side・S

平尾はあれから休憩を挟みつつ
沙耶との会話を続けていた。

そして、漸く見えてきた『真実』への糸口。
自分の知らない北条の『空白の1年』が
事件に大きく関わっていた事を。

彼女を仮眠室へと案内し
1人静かに刑事部屋へと向かうと、
目の前には山県の姿が在った。

「大将…」
「どうやら同じヤマに当たった様だな」
「大将は何処でそのネタを…?」
「…課長だ」
「課長が?」
「以前は巧くはぐらかされていたが…
 今度ばかりは、な」

「じゃあ…喫茶店の立て篭もり犯の事も…」
「あぁ…。彼女は、その事件で
 唯一の被害者、だったんだな……」
「そうだよ…。そして、彼女の兄は
 今でも警察を激しく恨んでいる。
 当たり前だけどね。
 彼女の声と未来を奪い、謝罪一つ無いんだから…」
「……」

山県は眉間に皺を寄せながら
暫し何かを考え込んでいた。

「どうしたの、大将?」
「ジョーは…」
「え?」
「まだ、無事…なんだよな?」
「あぁ。少なくとも
 彼女が家を出る迄は無事を確認出来ている」
「ジョーに対しての個人的に恨みは…
 無いのかも、知れんな。
 しかし、奴の本来の目的はまだ…
 果たされていないと言っても良い」
「大将……」

「そもそも、この一連の出来事は…
 本当に奴の『単独犯』なんだろうか?」
「そうだね…。単独にしては規模が大きい。
 きっと、裏に何か隠されている筈だ」
「早くそれを見付け出さないと…ジョーの奴……」
「大将……」
「必ず、見つけて見せるさ」
「…うん」

怒りを隠そうともしない山県の表情。
そして、必ず助け出すと云う力強い意思を感じる瞳。
平尾も又、静かに彼の表情を見守っていた。

* * * * * *

『終わらないって事ですよね…』

木暮は、思い出していた。
東京版切り裂きジャック事件で負傷した北条が
退院間際に語った言葉。

吉岡 沙耶の存在を、木暮は早くから察知していた。
そして…北条が全てを拒絶する切っ掛けとなった
東部署時代の立て篭もり犯射殺事件。
書類上は有耶無耶にされた真相。

北条の説得に、脅しの拳銃すら手放した犯人。
その正体は地方出身の青年。
劣悪な職場条件に文句も言わず勤めていたが
経営者は売り上げを持ち逃げしてしまった。
その後、職を探すものの見付からず
心身共に追い詰められた彼の取った行動が…
喫茶店の立て篭もり、だった。

「あの時、東部署の部長刑事が…
 射撃命令さえ出さなければ。
 そうすれば、あのお嬢さんが
 声を失う事も無かったかもしれん。
 正に…『終わらない』って事だな、ジョー…」

行方知れずとなった部下の幻に、
木暮は悔しそうに呟くしか出来なかった。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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