Act・9-5

NSM series Side・S

『あの日』から時間の止まった腕時計。
高崎はそれをいつも隠し持っていた。

父親の殉職は、常に彼自身の心に
大きな影を残していた。

何が自分にとって『一番大切』なのか。
それを確認する為に
この腕時計は修理にも出していない。

実弟の功、相棒の坂上すらも知らない、顔。

「親父。
 今の俺は…何もアイツの力に
 なれていないけれど…。
 それでも、無事を祈る事だけは出来る。
 アイツはもう…一人じゃない。
 仲間が居る。だから……」

腕時計をそっと握り締め
口から零れ出た思いの丈。

「親父…。
 功の成長を、どうか…」

再度腕時計を握り締め、
瞳を閉じて願う。
最愛の弟の無事を。

「どうか、俺と共に…
 見守ってやってくれ……」

* * * * * *

沙耶から伝えられた情報を元に
立花は鳩村と再度洗い直していた。
吉岡の真の狙いを。

「やはり…。先輩の一件は……」
「ジョー自身が狙いなら
 アイツの身柄を確保した時点で
 全てが終わっている筈。
 だが、未だにその気配は無い」
「電話が有りましたよね。
 やはり今迄の電話の主は吉岡…」
「悪戯電話に関しては、だな…」

そう言い掛け、鳩村はハッと気付いた。
重要な鍵を。

鳩村自身、吉岡に対しては
何の因縁も持ち合わせてはいない。
少なくとも、覚えが無い。
だが、彼は自分に対して
相当の恨みを持っている様子だった。

「もしも…吉岡の抱く俺への恨みが
 アイツの窺い知れぬ所で
 発生した物だとしたら……?」
「ハトさん?」
「吉岡さえもコマにされている。
 其処までして正体を隠している理由は…?
 黒幕の真の狙いは…何だ……?」
「ハトさん……」
「コウ。
 俺は…見付けられるかも知れん。
 この事件の真の黒幕。
 ターゲットは恐らく、この俺だ」
「!!」
「好都合だ。
 全員を残らず炙り出して
 徹底的に叩きのめしてやる」

鳩村の瞳に映る激しい怒りの炎。
立花は初めてそれを目にしていた。
大門軍団に居た頃の、
好戦的な彼の表情を。

だが、不思議と恐怖は無かった。
頼もしいとさえ思った。
そして、見ているだけで
自分まで高揚していた。
気持ちが昂ぶっていた。

『こんな…気持ち、生まれて初めてだ。
 説明が着かない、この気持ち。
 こんなにも…ワクワクしてる。
 不謹慎だと、解っている筈なのに』

写真からは窺い知る事の出来なかった
大門軍団員達のあの明るい表情。
迷いの無い、笑顔。
その元となった物の正体が
立花には漸く見えて来た様な気がした。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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