Act・9-6

NSM series Side・S

どの役がどんなタイミングで舞い込もうが
演じる自信はある。
監督の要求以上に結果を出す気持ちで
どんな役でも演じてきた。
只、【あの制服】だけはどうしても
袖を通す気分になれなかった。

拘っているだけなのだろうか。
何時までも俺だけが。
弟ですら乗り越えた壁を前にして
俺は未だに直視すら出来ていないのだろうか。

【トラウマ】と口にしてしまえば
呆気無い位だが。

「何処かで解っている筈なんだ。
 だけど、それを認めたくない俺が
 確かに存在している…」

何時かは超えなければならない。
そう…何時かは、必ず。

* * * * * *

何時かは乗り越えなければならないと
いつもそう感じてはいた。
そして、その時がやって来たのかも知れない。

功が刑事になった事は
高崎にとってプレッシャーであったのだが、
それを彼が知る事は無いだろう。
否、知らなくても何ら問題は無い。

「どうする? この仕事…。
 気が進まないのならば断って…」
「…いや、受けるよ」
「…良いのか? 隆」
「あぁ。俺も、変わりたいんだ。
 色々と…な」
「…隆」
「アーチ、宜しく頼むよ」
「…解った。
 但し、やるからには」
「勿論、最高のものにしてやるよ!」

袖を通すまい、と迄 避けていた
あの警察官の制服。
父親の死を、その生き様を
忘れない為にも…。

『俺は、負けない。
 だから、功。
 お前も…立ち向かえ。
 お前の目の前に聳え建つ壁に』

* * * * * *

「はい、西部署」

刑事部屋宛に掛かって来た一本の電話。
以前の不快な機械音の電話と思いきや
内容は実にアッサリとしたものだった。

『新宿西口のコインロッカーを調べてみて』

少し幼い青年の声で、唯 一言。
電話を受けた平尾は一瞬驚いた表情を浮かべ
再度聞き直そうとしたところ、
無念にも電話は切れてしまった。

「逆探は?」
「もう切れちゃったよ」
「で、何て?」
「え~っと…
 『新宿西口のロッカーを調べろ』
 だったかな」
「ふ~ん」
「どうする? 大将」
「…調べてみるか」
「やっぱり、そうだよね」
「まぁ、何が出てくるかは判らんがな」

愛用の上着を握り締め、扉へ向かう。
そして振り返る事無く一言。

「一兵」
「ん?」
「ホシの狙い、どう思う?」
「そうだね…。
 【大門軍団】と言うよりは…
 特定の【誰か】をターゲットにしている。
 そんな感じがしてきた」
「しかし、それはジョーでは無い。
 コウは…微妙だな」
「大門軍団の顔とも呼べる後継者と言えば?」
「俺?」
「う~ん、残念だけど一寸違うかな」
「…冗談だって。ハト、って事で良いのか?」
「多分ね。あくまでも僕の勘」
「勘ですか」
「刑事の勘は舐めちゃいけませんよ」

フフンッと鼻で笑ってみせる平尾の表情は
少し本来の明るさを取り戻したかの様だった。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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