演じる自信はある。
監督の要求以上に結果を出す気持ちで
どんな役でも演じてきた。
只、【あの制服】だけはどうしても
袖を通す気分になれなかった。
拘っているだけなのだろうか。
何時までも俺だけが。
弟ですら乗り越えた壁を前にして
俺は未だに直視すら出来ていないのだろうか。
【トラウマ】と口にしてしまえば
呆気無い位だが。
「何処かで解っている筈なんだ。
だけど、それを認めたくない俺が
確かに存在している…」
何時かは超えなければならない。
そう…何時かは、必ず。
何時かは乗り越えなければならないと
いつもそう感じてはいた。
そして、その時がやって来たのかも知れない。
功が刑事になった事は
高崎にとってプレッシャーであったのだが、
それを彼が知る事は無いだろう。
否、知らなくても何ら問題は無い。
「どうする? この仕事…。
気が進まないのならば断って…」
「…いや、受けるよ」
「…良いのか? 隆」
「あぁ。俺も、変わりたいんだ。
色々と…な」
「…隆」
「アーチ、宜しく頼むよ」
「…解った。
但し、やるからには」
「勿論、最高のものにしてやるよ!」
袖を通すまい、と迄 避けていた
あの警察官の制服。
父親の死を、その生き様を
忘れない為にも…。
『俺は、負けない。
だから、功。
お前も…立ち向かえ。
お前の目の前に聳え建つ壁に』
「はい、西部署」
刑事部屋宛に掛かって来た一本の電話。
以前の不快な機械音の電話と思いきや
内容は実にアッサリとしたものだった。
『新宿西口のコインロッカーを調べてみて』
少し幼い青年の声で、唯 一言。
電話を受けた平尾は一瞬驚いた表情を浮かべ
再度聞き直そうとしたところ、
無念にも電話は切れてしまった。
「逆探は?」
「もう切れちゃったよ」
「で、何て?」
「え~っと…
『新宿西口のロッカーを調べろ』
だったかな」
「ふ~ん」
「どうする? 大将」
「…調べてみるか」
「やっぱり、そうだよね」
「まぁ、何が出てくるかは判らんがな」
愛用の上着を握り締め、扉へ向かう。
そして振り返る事無く一言。
「一兵」
「ん?」
「ホシの狙い、どう思う?」
「そうだね…。
【大門軍団】と言うよりは…
特定の【誰か】をターゲットにしている。
そんな感じがしてきた」
「しかし、それはジョーでは無い。
コウは…微妙だな」
「大門軍団の顔とも呼べる後継者と言えば?」
「俺?」
「う~ん、残念だけど一寸違うかな」
「…冗談だって。ハト、って事で良いのか?」
「多分ね。あくまでも僕の勘」
「勘ですか」
「刑事の勘は舐めちゃいけませんよ」
フフンッと鼻で笑ってみせる平尾の表情は
少し本来の明るさを取り戻したかの様だった。
お題提供:[刑事好きに100のお題]