一通のメールが届いたのは
西部署で平尾が電話を受ける1時間前。
最初に気が付いたのは大下だった。
「何これ?」
「迷惑メールの類なら篩い別けしたんだろ?
今更何だよ」
「いや…その今更なんだけど」
持ち前の勘が働いたのか、
大下はそのメールを開いて読み始めた。
「おい、ユージ!」
「大丈夫だ、ウィルスメールの類じゃない。
寧ろこれって…」
「ん?」
「タカ、新宿に行くぜ」
「ユージ…」
「新宿西口のロッカーでお宝が眠ってるってよ」
「…成程、そう云う事か」
納得が行ったらしい。
鷹山もニヤリと笑みを浮かべると
相棒の肩を軽くポンポンッと叩いた。
「相変わらず鼻が利くよね」
「まぁ、こう云う事はね」
「でも女に対しては
御自慢の鼻も効かないのよね」
「まぁ…そう云う事は、ねぇ……」
「これで良し」
渋谷の一角にあるインターネットカフェの一室。
座った姿勢のまま青年はゆっくりと伸びをした。
『立花さん。貴方なら辿り着ける筈。
鳩村さんの過去に残された遺恨、
貴方なら払拭出来るって…信じて良いよね?』
手元のマグカップに手を伸ばし
少し冷めた珈琲を喉に流し込む。
『こう云う遣り方は僕らしくないかも知れないけど。
あいつ等の手口、嫌いなんだよね。
これで一掃出来ちゃえば僕達も仕事がし易い』
蛇の道は蛇。
怪盗【S-R】にとって
今回、小鳥遊班が挑むヤマは
他人事には思えなかった様だ。
『西部署、七曲署と動いてるんだ。
元敏腕刑事であったTop探偵社の二人の腕前も
一度ちゃんと見たいと思っていたし、好都合だ』
そろそろ引き払う時間が近付いて来た様だ。
コップの珈琲を一気に飲み干し、
来た時同様の軽装備で部屋を後にする。
無論、何一つ証拠は残していない。
椅子の温もり以外は。
「そろそろ新聞の一面が気になる時期だな」
意味深に呟いた青年の声は
雑踏に溶け込み、消えていった。
山県が新宿西口のロッカールームに到着したのは
鷹山と大下がその場に着いた30分後だった。
「あれ?」
「よう」
「何で?」
「呼ばれたの」
「誰に?」
「ラブレターの相手」
「はぁ~?」
要領を得ない二人の発言に
山県の表情から次第に余裕が消えていく。
「タカ、そろそろ遊ぶの控えないとヤバイぜ。
大将の奴はハトと違うんだから」
「そ、そうだね。そろそろ本題に進むか、ユージ君」
鷹山は苦笑を浮かべると
コインロッカーに残されていた
1枚のSDカードを山県に差し出した。
お題提供:[刑事好きに100のお題]