差出人不明の花束

それがいきなり私の元に届いた。

「…私宛に?」

綺麗な字で書かれた私の名前。
それ以外、何も無い。
誰からのプレゼントなのかも。

確かに私の誕生日は近いけど、
そんな事を知ってる人は…。

* * *

「『ラナンキュラス』の花束、かぁ…」
姫野さんは興味深そうにそう言った。

「あまり花束では贈らないわよね。
 私、初めて見たわ…」
「そう…なんですか?」
「えぇ。
 でも……」
姫野さんはウットリした表情で呟いた。

「綺麗……」
「そうですね。
 この花を見ていたら
 何だか胸がポカポカしちゃって…」

「うん…。
 花の所為なのかしら?
 それとも…正体不明の贈り主?」
「どっちでしょうか?」
「どっちなんでしょうね…」

姫野さんはそう言うと
ふっと微笑んだ。

女の私が見ても
綺麗な横顔だった。

* * *

「見事なラナンキュラスですね~~~」
仙道班長が鑑識室を訪れたのは
その直後だった。

「姫野さんから話を聞いて。
 見に来ちゃいました」
「どうぞ!
 あ、お茶淹れますよ」
「助かります~~~」

仙道班長は不思議な人だ。
のんびりしてるようで
実は極め細やかで、
鈍臭いかと思えば
勇猛で果敢で…。

あの人は「無茶無謀」と笑ってたっけ。

あの人も…
班長に会って、変わった。

優しくなった。
暖かくなった。
…一人じゃ、なくなった。

今は居ないあの人を思うと
やはり涙が出そうになる。

「亜紀さん」
班長が不意に声をかけてきた。

「はい?」
「ラナンキュラスの花言葉、
 …知ってますか?」

姫野さんから
『班長は空や天体に詳しい』事は聞いていた。
だけど、花言葉まで詳しいなんて
私は知らなかった。

「いいえ…知りません」
「ラナンキュラスの花言葉は
 『晴れやかなヒロイン』と云うそうです」
「晴れやかな…ヒロイン……」

「この花束の贈り主は…
 亜紀さんをそう見ているんですね」

え…?
班長、それって…。

「贈り主、知ってるんですか?」
私は思わず口に出していた。

班長は何も言わない。
寂しそうな笑みが印象的だった。

その瞬間。
私は、理解した。

「…鵜飼さん」

こんな気障な事をするのは
こんなさり気無い事をするのは
こんな悪戯っ子のような事をするのは…
あの人しか居ない。

「待ちましょう。
 皆で、贈り主さんを……」
仙道班長の優しい声が心に沁みた。

私、待ちます。
いつまでも、いつまでも…。
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