慣れた道を自転車で
のんびりとパトロール。
五井 康夫はいつもの様に
鼻歌交じりで警邏中である。
「今日も平和で何より何より…」
ご機嫌に辺りを見渡すと
いつもとは違う風景が
其処に展開していた。
厳密に言うと
昔は『馴染み』だった風景。
「…あ」
「よう」
サングラスを少しずらしながら
少し恥ずかしげに
その人物は笑っている。
「隠れん坊を見つかった気分だ」
「…そりゃ、
此処は体を隠す場所が無いですから」
五井は涙が溢れそうになるのを
感じていたが、
何とかそれを堪えている。
「…何か食いに行かないか?」
「えっ?
今、パトロール中ですが…」
「相変わらず頭の固い奴だな。
もう少し柔軟に行かないと
後で苦労するぜ」
男はサングラスを直し、
悪戯小僧宜しく笑みを浮かべた。
「御機嫌ですね」
仙道に声を掛けられて初めて
五井は自分の表情に気が付いたらしい。
「何か素敵な事がありましたか?」
「えぇ。最高な事がありました!」
「それはそれは…」
仙道は感受性の強い人物なのだろう。
共に喜び、共に悲しむ。
それがごく自然に表れる、人物。
だからこそ人が集まっていく。
彼の周りは暖かい空気が漂っている。
あの男が仙道に心を開いたのは
偶然ではなく、必然。
仙道だからこそ払えた
あの男の心の闇。
「…凄い人だな」
五井の独り言に仙道は眉を顰めた。
「何ですか?」
「何でもありませんよ。
あ、明日の天気はどうなんだろう?」
「明日はですね……」
仙道はいつもの笑顔で
嬉しそうに空を見上げていた。