THE MAGICHAN

1

「友津市の医科大学付属高校!?
 おいおい、何の用があって…?」

不機嫌そうな顔で薫は電話先の相手に愚痴った。

「スマル市の警官が何で
 友津市の医科大付属高に用があるんだ?
 …おい周防スオウ、ちゃんと説明しろ!!!」
「電話では詳しく話せないんだ。
 兎に角、頼まれてくれ。じゃあ…」
「じゃあ…って、おいっ !!」

 話は一方的に切れた。
 案の定、薫は目一杯不機嫌な雰囲気を漂わせている。

「受けてあげなよ。
 仕事でも結構世話になってるんだし」
「だからって何で医科大の付属高校なんだよ?
 大体俺は、話の読めねぇ事を引き受けたくねぇ。
 こう云うのに限って厄介事が付き物なんだ…」
「仕事が嫌なんじゃなくて、
 依頼主クライアントに周防さんなのが嫌なんでしょ?」

図星を指され、彼は急に黙り込んだ。
うららはクスっと笑う。

「相変わらずなんだから。
 …まぁ、そういう所が好きなんだけど」
「受けりゃいいんだろ、受けりゃ…」

この女には敵わない。
付き合い5年を経て一緒になったは良いが、
今ではすっかり立場が逆転している。
37歳の男が29歳の女の言いなりとは…。
女とは強い生命体だ。

「調べたんだけどさ…」

先程とは一転してうららは真剣な顔で書類を差し出す。

「昨日、研究所で火災が遭ったでしょ?
 あの施設の土地所有者、
 噂ではどうも医科大の関係者らしいの」
「…本当か?」
「間違いないわ。
 港南署が動いたのもその辺が関係してるのかも?」
「…にしても周防の奴。あの野郎、
 まだ俺の事を盗聴バスターか何かと思ってんのか?
 …まったくよぉ、俺は便利屋じゃねぇんだっ!!」

無駄と知りつつも、薫は思い切り毒づいて見せた。

* * * * * *

春はいつもと同じ様に校門をくぐった、つもりだった。
何故か今日は辺りの空気が違う。
生暖かい風が頬を撫で、背中に悪寒が走る。
幼い頃から剣士としての鍛練を積んできた
彼ならではの危機に対する反応だった。

「何が、起こるって言うんだ…?」

彼は咄嗟に身構えた。背後に気配を感じたからだ。
振り返るが其処には何も無かった。
確かに気配は残っているのに、である。

「俺を、見ていたのか?」

春は暫くその場から動けなかった。
背後から見られてたにも関わらず、
何故嫌悪感を抱かなかったのか。
そんな自分を不思議にすら思う。
彼は両目を閉じ、大きく深呼吸した。
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