THE MAGICHAN

2

教室内はいつも以上にざわついていた。

─ 今日は1年生が見学に来るんだったな。
…だからか

彼の脳裏は先程の気配の主の事で一杯だった。
懐かしさの中にも微かに残る怒りの感情。
全て自分に向けられたかは解らないが、
気配の主は少なくとも自分を見ていた。

『人に恨みを買った覚えは、無いんだが…』

ざわつきが一層大きくなる。
何気なく顔を上げた彼の目に一人の女生徒の姿が映った。
秋菜である。

『…あれ? 何処かで見たような…』

秋菜の目も春を捉えていた。

『あれ、あの人…?』

彼女自身も不思議だった。懐かしさが胸を締め付ける。
大切な何かが心の中から溢れ出してくる。
少年はまだこちらを見ている。
同じ様に不思議そうな目で。
意を決し、秋菜は彼の元へ向かった。

「…あの?」

彼女の呼びかけに春は少し驚いていた。
それ以上に秋菜自身も驚いた。
だが、その性格とは別に今は何かが彼女を動かしていた。
今、どうしても聞かなければいけないような気がする。

「私、一度貴方に会った気がするんです…」
「…俺も、そんな気がしてるけど…」

― …気ヲ、付ケロ! 奴ガ…動ク!! ―

2人の脳裏に、何かの叫びが響く。
軽い頭痛と耳鳴りがまるで警告の様に起こる。

「…何?」

秋菜の言葉の直後、激しく地面が揺れた。

普通の地震ではない。
明らかに自然のそれと違う、2人はそう確信していた。
そして反射的に春は秋菜を庇った。
さもそれが当然と云うかの様に。

「…あ、ありがとう」
「礼はいい。まだ収まっていない」
「うん。でも…どうして急に?」
「『奴が…動く』?」
「聞こえたの、君も?」
「ハッキリと。…この地震と関係があるのか?」

揺れは少し収まった。
春は秋菜を支えるようにして抱き起こす。
周りを見回すが非道い状況だった。
思わず秋菜が顔を覆う。

「俺達だけが、無事…?」

あの声が知らせてくれなければ間違いなく御陀仏だった。
彼は混乱する頭を思い切り振ると、
彼女の手を引いて教室から出た。

「何処に…行くの?」
「助かった人が他にもいるかも知れない。
 …捜すんだ!」

地獄絵図から今は兎に角 逃げ出したい。
身を引き裂かれる思いで2人は廊下を走り出した。
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