「白河先生なら何か教えてくれるかも知れない。
私のクラスの副担任なの」
「…今は少しでも外の情報を集めたい。
先生の所に案内して欲しい」
「解ったわ」
長い廊下をただひたすら駆け抜ける。
周りを見る余裕も、見ようとする気持ちも無かった。
惨状は高校の全ての領域に起こっている。
見るだけ無駄と云う事だ。
「…お互い、自己紹介してなかったね。
私、青木 秋菜。貴方は?」
「紫堂 春」
「紫堂君…。春君ね!」
この状況で彼女は無理矢理明るく振る舞おうとしている。
春にはそれが良く理解出来た。だからこそ、
余計握った手に力を込める。
今は彼女を守ってやりたい、と。
「連絡通路! 出られるよ!!」
秋菜が勢い良く飛び出す。
だが春の目には反対側から来る何かの影が映っていた。
「青木さん、ぶつかるっ!!」
直後、廊下中に彼女の悲鳴が木霊する。
物凄い勢いで正面衝突したのだから仕方がない。
「イテテ…。何が飛び出して来たのかと思ったぜ」
相手も腰を押さえて立ち上がる。
見慣れないスーツ姿に、女性かと思う程の長髪。
先程の声からして、男だと判るが…。
「ご、御免なさい…」
「こっちこそ済まなかったな。
…立てるか?」
「は、はい!」
「…アンタは?」
外見に面食らった春だったが、漸く自分を取り戻した。
目の前の男(?)に聞いてみる。
「俺か? 俺は嵯峨…」
そう言いかけ慌てて止める。
暫く考えた果てに思いついたのは…。
「【
「パオフゥ? 中国人?」
「名前は確かに中国語だが? 俺自身は歴とした日本人だ」
「どうして日本人なのに中国風の名前なの?」
「コードネームだよ。
仕事柄、こっちで名乗る方が多いんだ」
「仕事?」
「あぁ。野暮用で此処に来たんだが…。
こりゃ、随分と酷ぇ現場に出喰わしちまったみてぇだ…」
「野暮用…って?」
「内容は証せねぇ。…探偵業みたいなモンだからな」
2人は一先ず納得した。
見た目は多少変わってるが、
話自体におかしな所は見受けられない。
探偵業を営んでいるのなら、
当然 依頼内容を他人に証す事等有り得ないだろう。
「無事だったのはお前等だけか…」
「向こうの校舎から来たんでしょ?
あっちは無事だったの?」
「この範囲でこれだけの規模の地震だ。
無事な訳無いだろ?」
「そんな…」
秋菜がその場にへたり込んで泣き出した。
そんな彼女を、春は力強く抱き締める。
「…もう少しマシな言い方があるだろう?」
「生憎、デリケートとは無縁なんだ。
悪気は無かったんだが」
「…良いんです。ただ、一寸ショックだったから…」
その健気さが辛かった。
どんな思いで立ち上がろうとしているか、
彼女の心痛を思うと辛さが込み上げる。
「…お前等?」
パオフゥはふと2人の顔を覗き込んだ。
彼等から微かに何かを感じ取った様だ。
「…成程な。助かる筈だ」
「何がだ?」
「お前等、自分以外の何かを感じた事無いか?
例えば危機に出喰わして
何かが助けてくれたって経験無かったか?」
「そう言えばさっきの地震の時…」
「声を聞いた。『気を付けろ』って…」
「…やはりな。お前等も【仲間】って事か」
「仲間?」
秋菜は首を傾げている。意味が解らない。
「…説明は後だ。厄介な奴が現れた」
パオフゥはスーツのポケットからコインを取り出し、構えた。
「死にたくなけりゃ戦え。此処はもう戦場だ」