JUSTICE

6

「う……」

長い昏倒から漸く抜け出せた隆志が
虚ろな目で辺りを見渡す。
暗闇に目が慣れる迄更に時間が掛かった。
そして彼の瞳に映ったのは
気を失った3人を必死に介抱している秋奈の姿だった。

涙は無い。
必死の形相で回復魔法を行使していた。

保と要の怪我は魔法の効力により
少しずつ回復しているようだった。
だが、薫の状態はそれに反比例している。
魔法を受ける度に苦悶の表情が濃くなる。

「?」

隆志は手の動きで秋奈に魔法の停止を指示する。
その意図がいまいち理解出来ない様だったが、
彼女は素直に従った。
慣れた手付きで薫のシャツのボタンを外し、
胸を露わにさせた所で
彼は大きく溜息を吐いた。

「…これか」
「?」

痣、だった。

赤紫色の痣が心臓の位置を中心に広がっている。
まるでそれ自体に何かの意味を持たせる様な
不気味な広がり方だった。

「神取、だね?」

隆志の問い掛けに、彼女は黙って頷いた。
器用にボタンをかけ直し、彼は腕を組んだ。

「このまま此処にいても仕方がないな…」
「それはそうですけど…」

言い掛けて秋奈は言葉を止めた。
保と要が意識を取り戻し、
ゆっくりと立ち上がっていたからだ。

「皆…無事なのか?」

自身も傷付きながら、それでも保は仲間の安否を心配していた。

「…いや、嵯峨さんが重症だ」
「パオフゥが?」

咄嗟に思考が巡らなかったが、保は静かに薫に近付くと
そのまま彼を抱き上げた。

「保君?」
「このまま此処にいても仕方がないんだろう?
 ベルベッドルームにパオフゥを運ぼう」
「…そうだな」

隆志は名案とばかりに何度となく頷いた。

* * * * * *

圭は今日何度目かの携帯通信を試みた。

彼等が友津市に潜入捜査を始めて3日経つ。
その間に1度として連絡は無い。
不安に思い、漸く今日になって
彼自身が連絡を取ってみたのだが
何度携帯を掛けても
電波が繋がらないとのアナウンスばかり。

「律儀に電源を切っているとでも言うのか?
 馬鹿な、あり得ん」

何かが起こっている。

圭にはそうとしか思えなかった。
確実に友津市で何かが起こっているのだ。
楽観視出来ない出来事が。

彼は後悔していた。
仲間達を信じていない訳ではない。
逆に信じているからこそ。
大切に思うからこそ。

「行かせるべきでは、無かった…」

思わず漏れた本音。
歯噛みして自分の不甲斐なさを呪った。
既に戦士としての立場を終え、
幸せに暮らしている者も居た。
そんな彼等が危険な場所に赴いたと云うのに。

「くっ!」

苛立ちと後悔の念。
それに押し潰されそうな状態を感じ、
圭は思い切り机に拳を叩き付けた。

奮い立たせようとしていた。
そして…。

「俺が信じなくてどうする?
 大丈夫だ、彼奴等なら…きっと……」

何度もそう言い聞かせた。
そう、何度も、何度も。

その姿を扉の先で
松岡が見守っている事にも気付かずに。

* * * * * *

うららの捜索を行ったものの、
手掛かりは何も出てこなかった。

期待はしていなかったものの
その捜査結果に克哉自身が一番納得していなかった。
犯行の理由も手口も、それが彼に犯人の正体を教えていた。

「奴しか居ない」と。

それが解っていると云うのに公開する事も出来ず、
犯人が解っていても肝心なうららの居場所が全く掴めない。

然も配偶者とも連絡が付かないと来ている。

フラストレーションが溜まる一方だ。

「死人が人攫いを行った等と言った所で
 嘲笑されるだけだが…。
 新世塾の一件もある。
 上層部と言えど信用は出来ないな」

自分が追っている件と何らかの関係は有るのだろう。
そう思うからこそ、うららの件には自責の念の感じている。
何としても助け出したい。
親友の為に、愛する人の為に、
そして…何よりも彼女自身の為に。

「そうか…」

克哉はふと思い出した。
今回の誘拐事件との接点を。
出発点は薫に頼んだ「あの件」に有るはず。
それを辿れば或いは
うららの居場所に結びつくかも知れない。
克哉はその考えに行き着くやいなや
慌てて資料室へと駆け込んで行った。
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