不意に声が聞こえた。
男にしては高く、女にしては低音。
しかしその姿は確認出来ない。
「見てられねぇ。素人さん達は大人しくしてな!」
気が付くと秋菜の前に1人の人間が立っていた。
例の気配の主と同じオーラを、春は彼から感じた。
「…居るんだろ? さぁ、来いよ!」
掛け声と共に青白い光が彼を包む。
しかし、彼の呼びかけはパオフゥと異なっていた。
「シャドウ、バサラッ!!」
「シャドウ!? あれはペルソナのはず…?」
バサラと呼ばれたそれは、両腕から炎の帯を生み出す。
「マハ・ラギッ!!」
炎の帯が前方にいる死体の固まりに飛び込む。
決着は一瞬だった。
息付く暇もなく、彼は両手に鉄パイプを握り締めて
背後にいる敵に向かって行く。
「死体の殺り方知ってるか? 頭を潰しゃ良いのさ!」
その言葉通り、素早く的確に攻撃を繰り出す。
「…何だ、ありゃ? 攻撃が正確過ぎる…」
百戦錬磨のパオフゥでさえも、
その攻撃に対しては
背中に冷たい物を感じずにいられなかった。
実際、1分も経たない間に
彼は1人で敵を殲滅させてしまったのである。
「…強いのね、貴方」
秋菜は助けてもらった礼を言い、彼に近付いた。
彼は何も言わず彼女を見つめている。
「やはり、覚えてる訳無ぇよな…」
「えっ?」
彼はふいっと顔を背けた。寂しげな瞳を隠すかの様に。
「…お前、ペルソナ使えるのか」
今度はパオフゥが声をかける。正直に云えば尋問なのだが。
「ペルソナ? …あぁ、バサラの事か」
彼は素直に話に応じた。
「【外】の世界じゃ【ペルソナ】って呼ぶんだな」
「…外の世界?」
「…こっちの話だ。忘れてくれ」
彼は再び顔を背ける。
「…私、青木 秋菜。
彼が紫堂 春君で、この人がパオフゥさん」
秋菜は唐突に自己紹介を始めた。
春とパオフゥが顔を見合わせる。
「貴方は、何て言う名前なの?」
「…名前なんか、無い」
「どうして?」
「名前なんて…所詮は記号やコードだろう?
俺には必要のない物だ」
「じゃあ、何て呼ばれてたの?」
彼は更に表情を曇らせ、振り絞る様な声で答えた。
「THIRTEENTH…」
春とパオフゥは再度顔を見合わせる。
「13番目…?」
「ナギ? 貴方、ナギって言うのね?」
秋菜の論点のずれた返事に3人は唖然とした。
どうすればそう聞こえるのか。
「彼女、難聴か?」
パオフゥは完全に呆れ返っている。
だが、彼は優しい微笑みを浮かべてこう言った。
「ナギ、で良いよ。アンタが俺の名付け親だ」
「ありがとう、ナギ。
これからも宜しくね!」
余程嬉しかったのか、彼女は満面の笑顔で答える。
春もパオフゥも、そしてナギも、優しく彼女を見つめた。