THE HIGH PRIESTESS

2

「その程度の奴等相手に、何を時間掛けてんだ?」

不意に声が聞こえた。
男にしては高く、女にしては低音。
しかしその姿は確認出来ない。

「見てられねぇ。素人さん達は大人しくしてな!」

気が付くと秋菜の前に1人の人間が立っていた。
例の気配の主と同じオーラを、春は彼から感じた。

「…居るんだろ? さぁ、来いよ!」

掛け声と共に青白い光が彼を包む。
しかし、彼の呼びかけはパオフゥと異なっていた。

「シャドウ、バサラッ!!

「シャドウ!? あれはペルソナのはず…?」

バサラと呼ばれたそれは、両腕から炎の帯を生み出す。

マハ・ラギッ!!

炎の帯が前方にいる死体の固まりに飛び込む。

決着は一瞬だった。
息付く暇もなく、彼は両手に鉄パイプを握り締めて
背後にいる敵に向かって行く。

「死体の殺り方知ってるか? 頭を潰しゃ良いのさ!」

その言葉通り、素早く的確に攻撃を繰り出す。

「…何だ、ありゃ? 攻撃が正確過ぎる…」

百戦錬磨のパオフゥでさえも、
その攻撃に対しては
背中に冷たい物を感じずにいられなかった。
実際、1分も経たない間に
彼は1人で敵を殲滅させてしまったのである。

* * * * * *

「…強いのね、貴方」

秋菜は助けてもらった礼を言い、彼に近付いた。
彼は何も言わず彼女を見つめている。

「やはり、覚えてる訳無ぇよな…」
「えっ?」

彼はふいっと顔を背けた。寂しげな瞳を隠すかの様に。

「…お前、ペルソナ使えるのか」

今度はパオフゥが声をかける。正直に云えば尋問なのだが。

「ペルソナ? …あぁ、バサラの事か」

彼は素直に話に応じた。

「【外】の世界じゃ【ペルソナ】って呼ぶんだな」
「…外の世界?」
「…こっちの話だ。忘れてくれ」

彼は再び顔を背ける。

「…私、青木 秋菜。
 彼が紫堂 春君で、この人がパオフゥさん」

秋菜は唐突に自己紹介を始めた。
春とパオフゥが顔を見合わせる。

「貴方は、何て言う名前なの?」
「…名前なんか、無い」
「どうして?」
「名前なんて…所詮は記号やコードだろう?
 俺には必要のない物だ」
「じゃあ、何て呼ばれてたの?」

彼は更に表情を曇らせ、振り絞る様な声で答えた。

「THIRTEENTH…」

春とパオフゥは再度顔を見合わせる。

「13番目…?」
「ナギ? 貴方、ナギって言うのね?」

秋菜の論点のずれた返事に3人は唖然とした。
どうすればそう聞こえるのか。

「彼女、難聴か?」

パオフゥは完全に呆れ返っている。
だが、彼は優しい微笑みを浮かべてこう言った。

「ナギ、で良いよ。アンタが俺の名付け親だ」
「ありがとう、ナギ。
 これからも宜しくね!」

余程嬉しかったのか、彼女は満面の笑顔で答える。
春もパオフゥも、そしてナギも、優しく彼女を見つめた。
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