「春、秋菜。
死にたくなけりゃ俺の意識に同調しろ」
唐突にナギがこう言った。
2人は顔を見合わせる。
「ペルソナを呼びたいんだろ?」
「でも同調させるって、どうすれば…」
「余計な事を考えるな。…それで充分同調出来る」
「…やってみよう」
「春君…」
「こんな所で、死んでたまるか!」
本心からそう思った。
まだ死ねない、死んじゃいけない。
約束を果たす為。
遠い日に大切な人と交わした約束。
生きて、欲しい…と。
「……」
「……」
暖かな光が自分の心の奥から沸き上がる感覚を覚えた。
草の香りを運ぶ優しい風。彼女が愛した風が其処に在る。
「力を貸して。セイレーン!!」
秋菜の頭上に竪琴を掲げた乙女が現れ、
この世の物とは思えない美声で悪魔の動きを封じた。
マリンカリンの発動である。
懐かしい。潮の香りがする。
幼い頃海岸で剣の稽古に明け暮れた日々。
厳しくも暖かく指導してくれた偉大なる祖父。
そして…。
“我は汝、汝は我。
…さぁ汝、我が名を喚ぶが良い!!”
「俺は戦う。約束を、守る為に!」
春の心が一つになったその時、
彼を包む蒼い光の波が更に大きく激しく輝く。
まるで嵐の日の海のような激しさ。
秘められた力の解放感。
「俺は此処に居る!
来いっ、ナーガラージャ!!」
現れたのは大蛇の下半身を持つ雄々しき戦士だった。
鋭い眼光が敵を睨み付ける。
「マハ・アクアッ!!」
大海の勢いそのままに、
水流が身動き出来ない悪魔達を飲み込んだ。
これがペルソナの力、
もう一人の自分の持つ力であり可能性なのだ。
改めてこの力の恐ろしさを実感する。
「ならば僕も、静観する訳にはいかない」
夏樹は深呼吸をすると、両目を閉じた。
─ 姉さん、僕達を導いて下さい…。
彼等と同じように、しかし穏やかに蒼い光が彼を包み込む。
頭上に巨大な骨の固まりが浮かぶ。
恐竜の頭蓋骨かと思わせる不気味なペルソナ。
「見た事無ぇぞ、あんなペルソナッ!!」
パオフゥが驚きの声を上げる。
蒼い炎の鬣(?)を揺らし、その物体は雄叫びを上げた。
「さぁ、出番だ。イルルヤンカシュ」
夏樹の声に答えるような咆吼。
その音響が地面を揺さぶる。
「マグナスッ!!」
流石に狙いは正確である。
武田だった者の喉元に岩石の槍が突き刺さったが、
しかしまだ敵の止めは刺せない。
「魔法を合わせてみるか…」
春はふと呟いた。誰に学んだ訳でも無い。
ただ、単発の攻撃が駄目なら合体魔法で倒すしかない。
彼は瞬時にそう考えただけだったのだ。
「よし、俺に合わせろ!」
空かさずパオフゥが叫ぶ。
「マハ・ラギ!」
「マハ・アクア!」
「ガル!」
魔法が繋がった時、キーンという金属音が辺り一面に広がった。
「行くぜ、鎌鼬っ!!」
無数の風の刃が武田だった者の肉体を切り刻む。
流石の自称無敵もこの攻撃の前には虫の息だった。
「…」
生き残る為にはこれしか手段が無い。
とはいえ、戦いの経験が皆無な秋菜にとって
これ程後味の悪い思いはない。
「…助けて、あげられなかった…」
優し過ぎるその言葉に、春達は誰も答える事が出来なかった。