THE EMPRESS

4

薫は顔を顰めたまま寝室から顔を覗かせた。
元々夜型人間の為か、
朝早くから行動するのが苦手のようだ。

「おはよう!」

朝から台所でうららは忙しそうに動いていた。

「おう…」

傍らには何故か生が秋菜と助手をしていた。
それが薫の心に嫉妬の炎を点らせる。

「秋菜ちゃんと生君が手伝ってくれたの。
 もうすぐ出来るから待ってて」
「……」

静かにその場を後にする。
口を開いたら悪態を吐いてしまいそうで、
そんな自分を見せたく無いが為に。

「…薫?」
「煙草」

彼女の言葉にそれだけ答え、
彼は逃げるように外へ出て行った。

* * * * * *

「…あぁ~あ」

溜息が無意識に漏れ出した。

「くっだらねぇ」

勿論、その矛先は自分である。
彼女の言葉を信じてない訳じゃない。
寧ろ、信じ切っているからこそ
生じてくるマイナスの想い。
もっと強くなれたら、いつもそう考える。

「段々弱い人間になっていくみてぇだ…」

握り締めた拳を凝視し、苦笑混じりにゴチた。

「…何やってんだ、そんな所で?」

後を追い掛けてきたのか、背後から生が声を掛ける。

「何だって良いだろ?」
「うららさんが心配してるから
 見に来てやったってのに」
「それは済まねぇな」

皮肉混じりの返答に、しまったと顔を顰める。

「…子供じゃねぇんだから、俺に当たるなよ」
「何?」
「アンタって案外顔に出るのな。
 『うららは俺の物だ』って面してる」
「…俺のなんだよ」
「それって『束縛』じゃねぇの?」

生はやや怒気を含ませて台詞を吐いた。

「うららさんは優しい女性(ひと)だから、
 誰にでも声を掛けてくれる。
 得体の知れない俺なんかにも優しく接してくれる」
「…そうだな」
「じゃあアンタは?」
「…何が?」
「アンタは彼女に何をしてあげられるんだ?
 『貰うだけ貰う』主義なのか、嵯峨?」

自分より遥かに年下の生に鋭い指摘を受け、
薫は口を噤んだ。

『何も要らない』と云う彼女の言葉を
鵜呑みにしている訳では無いが、
確かに表立って何かをプレゼントした事は無い。

「彼女の愛情で繋がってる関係なのか?」
「…五月蠅ぇ」

今度は薫の表情が険しくなる。

「青二才が。知ったような事ほざくなよ。
 確かに俺はアイツを束縛してるかも知れねぇ。
 でもな、それが『安心感』を生む事だって有るんだ」
「屁理屈だ」
「男と女に『理屈』なんてねぇ!」

2人は互いを睨み合ったまま黙り込んだ。

睨み合ったままの二人、素直じゃない二人。
心境は同じだった。

『口が滑ったなぁ~。
 この男がうららさんを大切にしてるのは解ってるから
 つい怒らせたくなるんだよな…』

『ガキ相手に何 ムキになってんだ、俺は?
 コイツが可愛くねぇのは重々承知のはずだろ?
 いい加減、熱くなる性格を何とかせんと…』

だが決して自分からは折れない。
臍曲がりな所までそっくりな二人であった。
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