店を出た直後、薫は急に彼らを置いて何処かに向かった。
「どうしちゃったんだろ?」
「さぁ…?」
顔を見合わせる秋菜と生。保も呆気に取られる。
唯一人、隆志だけは何かに気付いたようだが…。
「後、附けてみようか?」
「止めて置いた方が良いと思うんだけどなぁ…」
隆志は苦笑いを浮かべている。
が、そう言われると
益々 彼女は気になって仕方が無い。
「ねぇ、保君はどうする?」
保は生を見るが、
彼も『お前に任せる』と云う目で此方を見ている。
「じゃあ、決まりね!」
嬉しそうに保と生の腕を取り、
半ば強引に秋菜は薫の後を附けて行った。
「止せば良いのに…」
一人取り残された隆志は、
やはり呆れ顔でその場に残った。
「…居たっ!」
街角の壁に背を預け、薫は煙草を吹かしている。
別に喫煙なら処構わず行う男だから、と
余り気にも気に留めなかったが…。
「…携帯取り出した」
生の言葉に反応して、全員一斉に薫を凝視する。
「…あぁ、俺だ」
「誰に掛けてるんだろ?」
秋菜は電話の相手が気になるらしい。
ここまできて漸く、
保は先程の隆志が放った一言の意味を知った。
薫はというと嬉しそうな顔で会話を続けている。
「ねぇ、生は誰だと思う? 携帯の相手」
「…うららさんじゃねぇの?」
「…何で?」
「だってよ、『あぁ、俺だ』って言ってただろ?
あの言い方、確か以前にもしてたから…」
「じゃあなんで態々…」
「案外照れ臭かったんじゃないか?
俺等の前でラヴコールするの」
「…照れ臭くて悪かったな」
声のする方を振り返ると、鬼の様な形相の薫がいた。
「良い趣味してんじゃねぇか」
薫の表情は変わらない。完全に怒らせたみたいだ。
凄み方が半端でなく怖い…。
「…ご、御免なさ~いっ!!」
秋菜は殆ど泣き声状態である。
「…全く、泣きゃ収まると思いやがって。
これだから女は扱い辛ぇんだ…」
無造作に髪を掻き揚げ、視線を保達に移す。
「お前等も青樹の誘いに乗らされたクチだろ?」
「図星だ…」
唖然とする生の額を指で弾く。
「痛っ!!」
「阿呆、何年生きてると思ってんだ?
年長者を見くびるんじゃねぇよ」
保が会話に割って入る。
「…で、うららさんは何て?」
「別に、何もねぇが。
…声を聞いてただけだし、互いに」
「会話じゃなくて…」
「お子様には解らんだろうなぁ~」
皮肉っぽく笑う薫を見ながら、思わず考える。
そういう恋愛のスタイルもあるのか…。
恋愛経験の無い保にとっては、
それが精一杯の理解だった。