THE LOVERS

2

「一寸、済まん…」

店を出た直後、薫は急に彼らを置いて何処かに向かった。

「どうしちゃったんだろ?」
「さぁ…?」

顔を見合わせる秋菜と生。保も呆気に取られる。
唯一人、隆志だけは何かに気付いたようだが…。

「後、附けてみようか?」
「止めて置いた方が良いと思うんだけどなぁ…」

隆志は苦笑いを浮かべている。
が、そう言われると
益々 彼女は気になって仕方が無い。

「ねぇ、保君はどうする?」

保は生を見るが、
彼も『お前に任せる』と云う目で此方を見ている。

「じゃあ、決まりね!」

嬉しそうに保と生の腕を取り、
半ば強引に秋菜は薫の後を附けて行った。

「止せば良いのに…」

一人取り残された隆志は、
やはり呆れ顔でその場に残った。

* * * * * *

「…居たっ!」

街角の壁に背を預け、薫は煙草を吹かしている。
別に喫煙なら処構わず行う男だから、と
余り気にも気に留めなかったが…。

「…携帯取り出した」

生の言葉に反応して、全員一斉に薫を凝視する。

「…あぁ、俺だ」
「誰に掛けてるんだろ?」

秋菜は電話の相手が気になるらしい。
ここまできて漸く、
保は先程の隆志が放った一言の意味を知った。
薫はというと嬉しそうな顔で会話を続けている。

「ねぇ、生は誰だと思う? 携帯の相手」
「…うららさんじゃねぇの?」
「…何で?」
「だってよ、『あぁ、俺だ』って言ってただろ?
 あの言い方、確か以前にもしてたから…」
「じゃあなんで態々…」
「案外照れ臭かったんじゃないか?
 俺等の前でラヴコールするの」
「…照れ臭くて悪かったな」

声のする方を振り返ると、鬼の様な形相の薫がいた。

「良い趣味してんじゃねぇか」

薫の表情は変わらない。完全に怒らせたみたいだ。
凄み方が半端でなく怖い…。

「…ご、御免なさ~いっ!!」

秋菜は殆ど泣き声状態である。

「…全く、泣きゃ収まると思いやがって。
 これだから女は扱い辛ぇんだ…」

無造作に髪を掻き揚げ、視線を保達に移す。

「お前等も青樹の誘いに乗らされたクチだろ?」
「図星だ…」

唖然とする生の額を指で弾く。

「痛っ!!」
「阿呆、何年生きてると思ってんだ?
 年長者を見くびるんじゃねぇよ」

保が会話に割って入る。

「…で、うららさんは何て?」
「別に、何もねぇが。
 …声を聞いてただけだし、互いに」
「会話じゃなくて…」
「お子様には解らんだろうなぁ~」

皮肉っぽく笑う薫を見ながら、思わず考える。

そういう恋愛のスタイルもあるのか…。

恋愛経験の無い保にとっては、
それが精一杯の理解だった。
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