THE CHARIOT

2

薫は彼等を新たな場所に案内していた。
恐らくペルソナ使いにとっては最も重要な拠点、
【ベルベッドルーム】へ。

「但し、お前等のペルソナが
 フィレモン経由じゃねぇとすると、
 利用出来るかどうかまで保証しかねん…」

正直な意見だった。

【ベルベッドルーム】の住人達は皆、フィレモンの従者だ。
主人の違うペルソナを果たして扱えるかどうか…。
それでももし、フィレモン以外の者に
ペルソナを与える事等出来ないのであれば。
彼等が只、フィレモンとの出会いを
忘れているだけなのであれば…。

「行ってみましょう。
 其処に何か大切な発見が有るかも知れない」

隆志は迷う事無くそう答えた。
振り返れば秋菜と生も頷いている。

「お前はどうだ、保?」

薫に呼ばれ、保は少し驚いた表情を浮かべた。
話を聞いていなかった訳ではない。
彼は今、何かを感じていた。
自分達を飲み込まんとする
巨大な陰謀が、確実に渦巻いているのを。

─ 止められるのだろうか、俺達に?
 もし、止められなかったら…?

そんな彼を、仲間達は心配そうに見つめていた。

* * *

街の片隅に存在する青い扉。
此処が意識と無意識の入り口、
【ベルベッドルーム】の扉だ。
躊躇する事無く、薫が扉を開ける。

「お待ちしておりました」

「久しぶりだなイゴール。
 ナナシもベラドンナも変わりなさそうじゃねぇか」

旧友と再会したような口調。
舞耶達に見せたような、感慨深げな表情。

「御無沙汰で御座いますな」
「あぁ…。
 世の中がひっくり返りそうな状況じゃなきゃ、
 此処には来ねぇからな」
「うらら様はお元気でいらっしゃいますかな?」

その問いに対し、この上もなく
嬉しそうな顔で薫は頷いた。
彼の横顔を見ながら、
秋菜はうららの事が羨ましくて堪らなかった。
そんな風に自分を愛してくれる
存在に出会えたら、きっと…。

「どうした?」

彼女の変化に生がいち早く反応した。

「…何でもないよ。大丈夫、気にしないで!」

努めて明るく振舞ったものの、
生にはこの手が通用しないらしい。
心配げな瞳が真っ直ぐに秋菜を見つめる。

「本当に…何でもないの」

視線を外すように俯き、
消え入りそうな声でこう答えた。
生は…何も聞かなかった。

「…ありがと、生」

彼は無言で秋菜を抱き締めた。
上半身は女なのだろう。
包帯で全身を硬くテーピングしているが、
微かに胸の膨らみが感じられる。
本当はそれを悟られるのが嫌な筈だろうに…。

─ 貴方が『かなちゃん』なら良かったのに…。

涙が一筋、零れた。
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