薫は彼等を新たな場所に案内していた。
恐らくペルソナ使いにとっては最も重要な拠点、
【ベルベッドルーム】へ。
「但し、お前等のペルソナが
フィレモン経由じゃねぇとすると、
利用出来るかどうかまで保証しかねん…」
正直な意見だった。
【ベルベッドルーム】の住人達は皆、フィレモンの従者だ。
主人の違うペルソナを果たして扱えるかどうか…。
それでももし、フィレモン以外の者に
ペルソナを与える事等出来ないのであれば。
彼等が只、フィレモンとの出会いを
忘れているだけなのであれば…。
「行ってみましょう。
其処に何か大切な発見が有るかも知れない」
隆志は迷う事無くそう答えた。
振り返れば秋菜と生も頷いている。
「お前はどうだ、保?」
薫に呼ばれ、保は少し驚いた表情を浮かべた。
話を聞いていなかった訳ではない。
彼は今、何かを感じていた。
自分達を飲み込まんとする
巨大な陰謀が、確実に渦巻いているのを。
─ 止められるのだろうか、俺達に?
もし、止められなかったら…?
そんな彼を、仲間達は心配そうに見つめていた。
* * *
街の片隅に存在する青い扉。
此処が意識と無意識の入り口、
【ベルベッドルーム】の扉だ。
躊躇する事無く、薫が扉を開ける。
「お待ちしておりました」
「久しぶりだなイゴール。
ナナシもベラドンナも変わりなさそうじゃねぇか」
旧友と再会したような口調。
舞耶達に見せたような、感慨深げな表情。
「御無沙汰で御座いますな」
「あぁ…。
世の中がひっくり返りそうな状況じゃなきゃ、
此処には来ねぇからな」
「うらら様はお元気でいらっしゃいますかな?」
その問いに対し、この上もなく
嬉しそうな顔で薫は頷いた。
彼の横顔を見ながら、
秋菜はうららの事が羨ましくて堪らなかった。
そんな風に自分を愛してくれる
存在に出会えたら、きっと…。
「どうした?」
彼女の変化に生がいち早く反応した。
「…何でもないよ。大丈夫、気にしないで!」
努めて明るく振舞ったものの、
生にはこの手が通用しないらしい。
心配げな瞳が真っ直ぐに秋菜を見つめる。
「本当に…何でもないの」
視線を外すように俯き、
消え入りそうな声でこう答えた。
生は…何も聞かなかった。
「…ありがと、生」
彼は無言で秋菜を抱き締めた。
上半身は女なのだろう。
包帯で全身を硬くテーピングしているが、
微かに胸の膨らみが感じられる。
本当はそれを悟られるのが嫌な筈だろうに…。
─ 貴方が『かなちゃん』なら良かったのに…。
涙が一筋、零れた。