THE STRENGTH

1

「…そろそろ、本格的に活動する様だな」

男は棺を見つめ、ふと呟いた。

「君は、どうするつもりだ?」

声を掛けられた青年は…何も答えない。
小脇に抱えたファイルを、無言で男に差し出す。

「任務は…了解した」

ファイルを受け取り、男はそのまま部屋を出た。
入れ違いに入ってきたのは青年と同年齢に見える…
プロトタイプの1人。

「何時迄 油を売っているつもりだ?」

あからさまに軽蔑の眼差しを向け、更に続ける。

「これだから不完全な存在は…。
 役に立たないなら、
 せめて僕達の足手纏いにならないように
 努めたらどうだ?」

踵を返し、そのまま部屋を後にする。
青年は何も返さない。
ただ その瞳が寂しげに扉を見つめるだけだった。

* * * * * *

保達は友津市の中央区に移動してみた。
街は心なしか
いつもの活気を失っているようにも見える。

「こんなに寂しい街だったかしら…?」
「いや…違ったと思う」

秋菜の疑問に、保は直ぐ返答した。
外界をまともに知らない生は
「そうなのか」と呟いている。

「普段はもっと賑やかなのよ。
 此処は友津市のメイン街だもん」

不安からか、秋菜は身振り手振りで力説する。

「…白河」

薫は不意に隆志を呼んだ。

「お前、どう思う?」
「? パオフゥさん…?」

秋菜が口を挟もうとするが、隆志はそれを制した。

「元々友津市は人口の多い街では無いですからね。
 しかし…この状況は異常でしょう。
 まるで此処に人を存在させたがらない何者かの
 意図が働いている様な…」
「お前も同じ考えか」

薫は意地悪く笑みを浮かべた。

「組織が…?」
「と、思いたいがな。
 あくまでもこれは憶測でしかない」

保の問いに対し、薫の答えは曖昧だった。

「街の全人口を移動させる技術など、
 生憎 奴等は持ち合わせていないぜ」

呆れた口調で生が呟く。
薫も隆志も、静かに頷いている。

「嵐の前の静けさ、か…」

保は風に揺られる店の旗を見つめ、そう呟いた。

* * * * * *

「全く、私が来た途端にコレなんだから…」

ルナパレス港南の一角。
うららは見事にひっくり返った部屋を
どう掃除してやろうか
思案に思案を重ねていた。

「相変わらずと言うか。
 いい加減にしろと言うべきか。
 これじゃいつか克哉さんに
 愛想尽かされるんじゃないの?」

しかし、心の何処かで安心していたりもする。

5年経っても彼女は変わらない。
それが…うららには嬉しい事だった。
離れて生活を始めたが為に
友情が終わってしまうなんて、
哀しい思いだけはしたくなかったから。

「リサちゃんにまで掃除させるなんてねぇ~。
 その内、あの子の事だから…
 達哉君達にもさせるんじゃない?」

着替えが乱雑に置かれている
舞耶のベッドに腰を下ろし、
窓から覗く空を眩しそうに見つめる。

「おてんとさんが良い感じだわ。
 布団でも干そうかしら?」

その下で、世界の為に
影ながら懸命に戦う愛する者達。
彼等の事がどうしても心配になる。
薫は彼女を気にして、
何度か携帯を掛けてはくれるが
会えない事は心理的に辛い。

「解ってますよ~」

寂しさを紛らわすように、態と口を尖らせて悪態を吐く。

「それが我が儘だって事位!
 でも寂しいのよ、解る?」

近くに置かれているテディベアを抱き上げ、
うららは大きな声で叫んだ。

「とっとと帰ってこぉ~いっ!!」
Home Index ←Back Next→