THE STRENGTH

2

「東区、中央区には特に組織の気配は感じないな」

辺りを見回し、保が唸る。

「何が目的で、どうしたいのか。
 それすら判らないもんな…。全く、嫌になるぜ」
「言うねぇ、お前も」

薫は笑いながら彼の背中を強打する。

「ま、悪い組織の考える事なんかお決まりだがな」

相変わらず呆れ口調の生。
緊迫感が無いのではなく…
組織の考えには付いていけないのだ。

だからこそ反旗を翻した。
裏切り者の名を受けてでも、
彼には貫き通す意志がある。

「なぁ、生?」
「ん? 何だ、保」
「プロトタイプってどれ位居るんだ?」
「多分…13よりは少ないな」
「どう云う意味だ?」
「保たないんだよ、素体がな」

少し伏せ目がちになり、彼は続けた。

「頭がイカれるか、身体が崩れるか。
 保たない素体は…只の物体と化すのみ。
 運良く保っているプロトタイプの数は…
 俺が知ってるだけで、7~8体って所かな」
「そうか…」

今度は保が項垂れる。

「済まない。…嫌な事、聞いちまったな」
「構わねぇよ。…必要なんだろ」

生の表情は重い。

「酷い話…」

秋菜の声が震えている。
涙を堪えている為だ。

「解り合えないのかな、彼等と…」
「プロトタイプと、かい?」

彼女の発言に、やや驚いた顔で保が聞き返した。

「だって…彼等も被害者じゃない。
 組織に利用されて、こんなのって…」
「無理だな」

キッパリと生が否定する。

「…でも」
「無理だ。アイツらに聞く耳など無い。
 それは俺が一番よく解ってる…」
「どうして、断言出来る?」

今度は薫である。

「FIRSTも言ってただろ?
 不完全な『人工生命体』だと。
 俺達は特別な過程で生み出され、育てられる。
 戦闘兵器としてな…」
「そんな…」
「兵器に耳は不要だろう?
 つまりは、そう言う事さ。
 『自分達は優れた兵器である。
 組織の為に戦う事だけ考えていれば良い』。
 …それを植え付けられてるんだ」
「じゃあ…どうして生は無事だったの?」
「……」

少し思案する生。
徐ろに、何故か隆志を見つめる。

「教官が『まとも』だったから、だな」

彼はそれ以上言わなかった。
そして…それ以上聞かせない鬼気迫る物があった。

* * * * * *

視線を向けられた時、
無意識に目を背けようとしていた。
生の生い立ちについては多くを語りたくない。
そう…必要以上に惨めになるだけだから。

隆志には誰にも聞かれたくない事情がある。
知られたくない過去がある。
そして…彼自身がそれを一番良く理解している。

自分は醜い人間なのだ、と。

「白河先生…?」

秋菜が心配そうに声を掛けてくる。
その声が、彼を現実に引き戻した。

「あ…あぁ。何だい?」
「大丈夫ですか? 顔が真っ青ですよ」

気付けば掌に気味の悪い汗が溜まっていた。

「…大丈夫だ。少し、考え事をね」
「そう…ですか……」

少し納得いかないようだが、秋菜は素直に頷いた。

─ まだ…あの人は僕を拘束したいらしい…。
 僕が僕である事を…
 それ程 認めたくないのだろうか。

誰に語られる事のない彼の嘆きは
心の奥で微笑む人物に向けられていた。
その存在こそが超えられない己の壁。
生じる苛立ちすら、
彼にとっては苦痛でしかなかった。
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