辺りを見回し、保が唸る。
「何が目的で、どうしたいのか。
それすら判らないもんな…。全く、嫌になるぜ」
「言うねぇ、お前も」
薫は笑いながら彼の背中を強打する。
「ま、悪い組織の考える事なんかお決まりだがな」
相変わらず呆れ口調の生。
緊迫感が無いのではなく…
組織の考えには付いていけないのだ。
だからこそ反旗を翻した。
裏切り者の名を受けてでも、
彼には貫き通す意志がある。
「なぁ、生?」
「ん? 何だ、保」
「プロトタイプってどれ位居るんだ?」
「多分…13よりは少ないな」
「どう云う意味だ?」
「保たないんだよ、素体がな」
少し伏せ目がちになり、彼は続けた。
「頭がイカれるか、身体が崩れるか。
保たない素体は…只の物体と化すのみ。
運良く保っているプロトタイプの数は…
俺が知ってるだけで、7~8体って所かな」
「そうか…」
今度は保が項垂れる。
「済まない。…嫌な事、聞いちまったな」
「構わねぇよ。…必要なんだろ」
生の表情は重い。
「酷い話…」
秋菜の声が震えている。
涙を堪えている為だ。
「解り合えないのかな、彼等と…」
「プロトタイプと、かい?」
彼女の発言に、やや驚いた顔で保が聞き返した。
「だって…彼等も被害者じゃない。
組織に利用されて、こんなのって…」
「無理だな」
キッパリと生が否定する。
「…でも」
「無理だ。アイツらに聞く耳など無い。
それは俺が一番よく解ってる…」
「どうして、断言出来る?」
今度は薫である。
「FIRSTも言ってただろ?
不完全な『人工生命体』だと。
俺達は特別な過程で生み出され、育てられる。
戦闘兵器としてな…」
「そんな…」
「兵器に耳は不要だろう?
つまりは、そう言う事さ。
『自分達は優れた兵器である。
組織の為に戦う事だけ考えていれば良い』。
…それを植え付けられてるんだ」
「じゃあ…どうして生は無事だったの?」
「……」
少し思案する生。
徐ろに、何故か隆志を見つめる。
「教官が『まとも』だったから、だな」
彼はそれ以上言わなかった。
そして…それ以上聞かせない鬼気迫る物があった。
視線を向けられた時、
無意識に目を背けようとしていた。
生の生い立ちについては多くを語りたくない。
そう…必要以上に惨めになるだけだから。
隆志には誰にも聞かれたくない事情がある。
知られたくない過去がある。
そして…彼自身がそれを一番良く理解している。
自分は醜い人間なのだ、と。
「白河先生…?」
秋菜が心配そうに声を掛けてくる。
その声が、彼を現実に引き戻した。
「あ…あぁ。何だい?」
「大丈夫ですか? 顔が真っ青ですよ」
気付けば掌に気味の悪い汗が溜まっていた。
「…大丈夫だ。少し、考え事をね」
「そう…ですか……」
少し納得いかないようだが、秋菜は素直に頷いた。
─ まだ…あの人は僕を拘束したいらしい…。
僕が僕である事を…
それ程 認めたくないのだろうか。
誰に語られる事のない彼の嘆きは
心の奥で微笑む人物に向けられていた。
その存在こそが超えられない己の壁。
生じる苛立ちすら、
彼にとっては苦痛でしかなかった。