THE STRENGTH

3

見慣れた筈の街を、
まるで異国のように歩く自分に違和感を覚えた。
最近の自分を取り巻く環境は
そう言えば違和感だらけだ…。
右手に填めたグローブがヒヤッとした感触を伝える。

─ 自分は…戦うんだ……。

この雰囲気に慣れてきたのだろう。
幾分、周りを冷静に見渡せるようになってきた。
そう、此処に居る仲間達の御陰で
彼女は少しずつ自分を取り戻していた。

─ あの時の感覚と似ている気がする…。

ふと、幼き日を思い返す。
秋菜にとっては辛く悲しい思い出を。

『それ』は突然訪れた。
或る日を境に、母親が自分の前から姿を消した。
両親の離婚、そして父親に引き取られた自分。
理由は未だに判らない。
今はもう、特に知りたいとも思わない。
兄弟もなく、唯一人取り残された寂しさは、
きっと…誰にも解っては貰えない。
少女秋菜は、それから他人に対して
心を閉ざしていったのである。

前に歩く男達。
一際目立つのが銀色の髪をした青年。
見れば見る程、自分の初恋の少年に似ていた。
何度か、聞いてみようとも思った。
だが…「違う」と言われるのが怖くて、未だに聞けぬまま。
こうして後ろ姿を見守るだけ。
このメンバーでは最も『お荷物』な自分に対し、
一番気遣ってくれるのも彼なのだ。

─ 一緒であって欲しい。
 でも…もし違っていたら…?

彼女は何処かで恐れていた。
自分にとっての一番は
「かなちゃん」でなければならない。
何故なら…その理由は
遠い昔に交わした約束にあった。

『きっとよ。きっと、
 かなちゃんのお嫁さんにしてね』
『…うん。約束する』

「私は……」

目の前に2人が並んだ時、
自分はどうすれば良いのだろうか。
その時が来ない事を、彼女は必死で祈っていた。

* * * * * *

「中央区には組織のその字も無いみたいだな…」

保はぼやきながら生に意見を求めた。
彼も特定の地域に居たらしく、
組織の居る場所が何処か迄は詳しく知らない。
解ってはいるものの、ついつい彼に助け船を求めてしまう。

「有ったとしても…地下か?」
「それを探すのが、俺達の仕事だろう?
 ほら、若い者がボヤくんじゃねぇよ。キビキビ歩け」

薫の励ましともヤジとも取れる声に、渋々従う。

「だってよ、悪魔なら此処迄かなりの数と戦ったけど
 組織の連中とはお目に掛かってもいないんだぜ?」
「悪魔が奴等の差し金かも知れないよ。
 人型だけを目印にするのは危険だ」
「あ…そうか」

隆志の忠告に、彼は素直に反応した。

武田の件もある。
悪魔を召還して来ない保証は無いのだ。
それをすっかり失念していたのである。

「青樹さん、フリスビー上手いんだな。
 凄く助かってる」
「本当? 後ろからだから
 皆に当たらないか心配で…」
「大丈夫。当たっても秋菜のディアがある」

生の突っ込みに呆れ返る保。
困惑の笑みを浮かべる秋菜。
その様子を、薫は顎をさすりながら見つめていた。

「…お前等よぅ」
「何?」

返答したのは生だ。

「本当にコレが初対面か?」
「…だと思う」
「私も…」

保と秋菜が答えたのに対し、生は黙秘。

「それだけコンビネーションが
 合ってきた証拠でしょう。
 何にせよ、良い傾向ですよ」

訝しむ薫に対し、隆志が口を挟んだ。
明らかに生の援護射撃だ。
彼はそう確信していた。

─ やはり…白河は生と面識がある。
 或いは他の2人共…。

彼にとって、『それ』が最大のポイントだった。

知っているのならどうして『敢えて』隠すのか。
隠す事にどれだけのメリットがあるのか。
正体を明かす事にどれだけのデメリットがあるのか。
その辺りが全く見えてこないのだ。
もしかすれば…
その【謎】を明かせば、
一気に組織との差を詰められるのに。

だからこそ彼には歯痒いのだ。
口には出さないが、【疎外感】が付きまとう。
それは、孤独を嫌う彼にとっては
耐え切れない重圧だった。

「解らない事だらけだぜ…」

口を尖らせ、愛用の煙草に手を付ける。

「パオフゥさん、路上ポイ捨ては止めてよ」
「お前は俺のお袋さんか、青樹?」

意に介さない、と言わんばかりに
彼は煙草に着火した。
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