THE STRENGTH

4

圭の用意したホテルの一室。

其処には知った顔ぶれが頭数を揃えていた。
長い沈黙の後、圭がスライドで
自分の収集した資料を見せる。

「…友津市の至る所で
 空間の歪みが発見されている。
 僅かながら、地上では
 あまり観測されない物質も紛れ込んでいるらしい」
「それが、悪魔の具現化と何か関連があるのか?」

口を開いたのは玲司だった。
あの後携帯を切ってから、
ブラウンとの遣り取りはない。
『何故か』電波が通じないのだ。

「…かも、知れん。
 尤も、断言は出来んがな」
「南条…」

歯切れの悪い返事だった。
彼らしくないその発言に、
問いを出した玲司の方が済まなそうに俯く。

「5年前、俺が戦っていた時には…
 こんな事はなかった。
 少なくとも、ペルソナ使いの資質を持つ者以外に
 悪魔は確認されていなかった」
「もう…見えるのか?」

マークの問いに力無く頷く。

「そうか…」
「だけど、此方には何の情報も入ってきませんわね」
「エリーの言う通りだよ。
 マスコミが全く気付いていないってのも
 おかしいと思わない?」
「それもそうだな」

口々に考えを述べるがいまいち話が纏まらない。

「もう一度、友津市に向かうしかないか…」

その一言に、全員が発言者の顔を見つめる。
癖のように左耳のピアスを指で弾き、彼は続けた。

「情報は自分達で集めた方が早くて正確だろう。
 分析は南条に任せ、
 向かえる奴は友津市に潜入してみないか?
 正直、ブラウン一人に任せるのも拙いだろう」
「それって…アイツを信用出来ないって事か?」

意地悪っぽく笑うマークに対し、
穏やかだが何処か不安げな笑み。

「…その逆だよ。
 あぁ見えてブラウンは責任感が強いだろう?
 自分の事を顧みないで
 突っ込んでいきそうだから怖いんだ」
「有り得るわね…」

麻希も重い口を開いた。

「アタシも賛成。
 単独行動は控えた方が良いね」

ゆきのも同意を表した。

「決まり、だな」

玲司の言葉に、圭以外の全員が頷いた。

圭が頷けなかった理由は唯一つ。
自分が現場に向かえない事だ。

仲間達は誰よりも彼の立場を理解してくれていた。
だからこそ最も適任と思われる
【情報分析】を任せたのだ。
その気持ちは確かに嬉しい。
だが…嬉しいからこそ、
『申し訳ない』気持ちが先立つ。
もう、自分は嘗ての様な行動を取れないのだ。

「南条…?」

心配そうに見つめる青年に対し、圭は黙って頷いた。
それしか、自分には出来ないのだから。

「現場は任せる。但し…」
「但し?」
「危険だと感じた時には速やかにスマル市に戻れ。
 いいか、絶対深追いするな。
 …あの男にも、そう伝えておいてくれ」
「勿論だ」

青年は笑顔で返した。
内心「言っても深追いするのだろうな…」と思いながらも
圭はその気持ちを心の奥に閉じ込めた。
「必ずだぞ」
念を押す事で、全ての希望を託して。

* * * * * *

一台の黒塗りの車が真っ直ぐスマル市へと向かう。
後部座席に深々と腰を下ろし、
男は渡された資料を丁寧に読み返していた。
時折頷き、時折微笑む。
同乗している者達は人形の様に何の反応も返さない。

「良く此処まで集めたものだ。全く、感心するよ。
 その執念をね…」

丁寧にファイリングされた資料を
アタッシュケースに収納し、
男は黙って窓から景色を眺めていた。

「移りゆくのは景色か、時代か、人の心か…」

口元にうっすらと笑みを浮かべ、
男は更に深く座席に身を委ね、瞳を閉じた。
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