THE STRENGTH

6

子供達と離れた現場から更に南へ10分程歩いたか。
やはり【彼等】独特の気配が漂い始める。

「居るんだ、此処に」

保はそう呟き、仲間達の顔を見つめる。

険しい顔の生。
哀しげながらも
以前の弱さは微塵にも感じなくなった秋菜。
いつもと変わらない薫。
そして…一番冷静に感じる隆志。

「行こう」

保は自分自身に奮起を促すように気合いを入れた。
更に道の奥へ進む。
其処には…
やはり【プロトタイプ・メシア】の姿が確認された。
地面に書かれた魔法陣からは、
次々と悪魔達が溢れ出してくる。

「随分クラシックな召還方法を使うんだな…」

堪らず毒舌を吐く薫。
先程の子供達と共に居た人達は
この召還術の犠牲となったのかも知れない。
そう思うと…いたたまれなくなる。

「全く、生命を何だと思ってやがるんだ…」
「来るぞ!」

プロトタイプの口元が大きく歪むのを
見た生が号令を掛けた。
悪魔達が一斉に飛来する。

「一掃するか!」

それぞれが武器を取り出し、構える。

具現化した悪魔が人間を襲うので有れば、
それを食い止めなければならない。
例え組織の狙いが見えなくても、
思い通りにだけはさせたくない。

これが今、彼等の戦う理由である。
「パオフゥさん、【癒しの調べ】を!」

空かさず秋菜が指示する。
隆志曰く『頭の回転の速い子』である。
その気になれば戦闘の作戦指揮等、
簡単にやってのけるのだ。

「お…おぅ!」

慌ててオデュッセウスを発動。
それを見定めてから秋菜もセイレーンを発動する。

「クラシックメロディー」

プロトタイプの召還した悪魔達が次々と倒れる。

「これで集中出来るな」
「でしょ?」

誉められたのが嬉しかったのか、
秋菜は笑顔で答えた。
その明るい表情がうららを思わせる。

─ 早く…早く終わらせねぇとな。
 アイツの元に戻る為にも。

プロトタイプの直接攻撃(飛具)は全て、
生が弾き返していた。
彼の動きも一段と冴えわたる。

「マハ・アクアッ!!」

保は真っ直ぐプロトタイプに狙いを絞って魔法を放った。
しかし……。

「効いてない…?」

掠り傷一つ無い状態。
確かに魔法は命中した筈なのに…。

「奴は…【能力】を使用したな…」

舌打ちし、生が剣の構えを解く。
彼の決意を読み取ったのか、
冷静な筈の隆志が取り乱したかの様に叫ぶ。

「駄目だ! 止すんだ、生っ!!」
「…平気だよ。
 只、制御出来なくなった時は…
 絶対に止めてくれよな」
「何をするつもりだ、アイツ?」

不安な声で薫が問う。

「【メシア】の能力を解放する気です…。
 しかし…それじゃ……」

静かに生は意識を集中させる。
仲間達の声も彼の耳には届かない。
そして、彼の銀色の頭髪が
ゆっくりと黄金色に変色していく。
薄い碧色の瞳も、深い黄金色へと変わる。

「あれは…生なの?」
「そうだ…。
 13番目の『プロトタイプ・メシア』だよ…」
「何故お前がそれを…?」

隆志は、薫の問い掛けには答えなかった。
唇を噛み締め、生の変貌を見守っていた。

* * * * * *

プロトタイプ同士の戦闘は完全に肉弾戦だ。
より多く拳を打ち込む。
単純明快で、逆にそれが恐ろしい位だった。
肉眼で追いつかない速さ。
手数で完全に生が上回っている。
そして…彼の表情は、
『破壊を愉しむ悪鬼』の如く不気味な物だった。

「…止めて」

見るに見かねて秋菜が止めようとするのを、
隆志は制止した。

「白河先生…?」
「今の彼に敵味方の区別は出来ない。
 破壊衝動が収まるまで、近付くのは危険だ」
「でも…」
「今の彼だと、間もなく【解除】される筈だ…」
「白河…お前、何を隠してる?」

薫は苛立ちを隠す事無く言い放った。
流石に傍観しているだけの状態に憤慨している。

「知ってやがったな、【プロトタイプ】の事…!」
「…えぇ。概要位は…」
「じゃあこうなる事も判ってたんだろうがっ!!」
「止めてっ!! 止めて下さい、二人共!」

秋菜の涙の抗議に、二人は黙り込んだ。
だが薫は隆志を睨み付けている。

「生?」

戦闘を見守っていた保の声が何かを知らせる。
生の髪が…銀色に戻っていくのを確認したのだ。

「タイムアップか…」

動きが緩慢になる。
生は後退し、プロトタイプの出方を伺う。
敵も又、能力解除を余儀なくされたようだ。

「今なら魔法も通じる…!」

保の言葉に、隆志は素早く反応した。

展開スプレッドっ!」

確かにペルソナを召還した筈だったが、
彼を包み込む光は青色ではなく七色に輝いていた。

「スプレッド…?」

疑問の瞳で薫を見つめる秋菜だったが、
返って来たのは疑問符だった。
確実なのは
『いつものイルルヤンカシュでは無い』と云う事だけ。

「メギド!!」

隆志は容赦無かった。
核熱の固まりをプロトタイプに叩き込む。
何とも云えない臭いが辺りに充満した。

「通常、イルルヤンカシュにあの魔法は使えない筈」
「えっ?」
「メギドは相当特殊な魔法でな。
 行使出来るペルソナは限定されている。
 少なくとも、俺の知るペルソナでは…」
「しかし、白河先生は使えた…」
「パオフゥさん、これは一体…?」
「白河…。アイツ、何者なんだ…?」

薫は隆志に対する疑惑や怒りを払拭出来ずにいた。

* * * * * *

同時刻。ルナパレス港南。

「はい?」

特に何の疑問もなく、うららは玄関の扉を開いた。
其処に居たのは 複数の黒ずくめ集団。
そして…。

「アンタ…」
「迎えに来ましたよ、聖母」

うららは自分の目を疑った。
一瞬、時間が止まったような錯覚を覚える。
だが。

「『迎えに来た』ってのはどう云う意味かしら?」

気丈にもそう受け答える。
本能は【組織の臭い】を感じ取っていた。
抵抗するだけ無理だろう…。

「丁重にお連れしろ」

男はうららに微笑みを返し、その手を取った。
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