THE HERMIT

2

「久しぶり!」

収録の合間、スタジオを散歩していた
リサに声が掛かる。

「あれ? 淳! どうしたの?」
「僕達は取材。
 でも今はミッシェルが一人で応戦してるよ」
「…逃げてきたって訳?」
「まぁね。
 僕はキーボードを奏でているだけで充分だから」
「…淳らしいわ」

リサは思わず苦笑を浮かべた。

芸能人らしくない控えめさ。
それが更に彼の人気に拍車を掛ける。
人を引きつける魅力は
十二分に備えていると云うのに…。

ふと、あらぬ事を思い出して
リサは激しく頭を振った。

「リサ? どうしたの?」
「…大丈夫。何でも無いよ」
「そう…? でも、無理はしないで」
「ありがと…」

見るからに元気が無いのだが、
淳はそれ以上声を掛ける事が出来なかった。

「栄吉は、元気にしてる?」

心配させた事を気にしてか、
今度はリサが話題を振る。

「うん。相変わらず…と言いたいけど」
「けど…何?」
「最近、【アニキ】って人と
 よく連絡を取り合ってるよ」
「アニキ? 誰?」
「さぁ? 僕も聞いてはいるんだけど…
 『その内判るって』の一点張り」
「はぁ~。栄吉らしいのか、違うのか。
 よく判らない所が有るよね」
「そうだね」
「誰が?」

「うわっ!!」

背後からの声に二人して驚く。
『してやったり』の表情で栄吉が立っていた。

「こんな所で油売ってて良いのか?
 メンバーが捜してたぜ、ギンコ」

ギンコ。

確かに、彼はそう言った。
何の躊躇いも無く。

「栄吉、アンタ…」
「そろそろ…臨戦態勢整えた方が良いって
 或る人から連絡が有ってな」

栄吉の表情に戸惑いや痛々しさは無い。
あの戦いの後半に見せていた、力強さが甦る。

「或る人って?」
「あぁ、南条さんだ。ゆきのの姐さん達も動くって」
「動く…」

その言葉に淳が反応した。

「…恐れてた事が、起こるんだね」
「そうだな…」

淳が戦いを嫌っている事は知っていた。
そして、意識が過去に引きづられ
更に苦しみを与えられるであろう事も…。
だが…。

「動くしかねぇって事だ」

敢えて栄吉は言い切った。

それだけの力を持つのなら。
それだけの勇気を持つのなら。
正しいかどうかは判らなくても前に進む。

「俺、もう後悔だけはしたくないからな…」
「そうだね…。そうだよね…」

同意したのはリサだった。

「知ってて知らんぷりなんて出来ない。
 舞耶ちゃんも…頑張ってるんだもん」
「舞耶姉さんも…」
「淳」

困惑したままの淳に、栄吉が声を掛ける。

「最初に断っておくが、コレは【強制】じゃねぇ。
 行きたい奴が行けば良いんだ」
「でも…」
「どんな行動にも【理由】があるって事だろ?
 誰にも強要なんか出来ねぇよ」
「……」
「淳…」

リサが声を掛けるも、返事は無かった。

迷っている。
どうするべきかを。

「御免……」

漸くの思いで出せた言葉だった。

「もう少しだけ…考えさせて」
「良いぜ。うんと考えれば良い」

栄吉の答えは『肯定』だった。
リサも静かに頷いている。

「ゆっくり時間を掛けて考えれば、それで良い。
 文句を言う奴が居たら俺が殴ってやる」
「…昔の、達哉みたいだね」

淳が恥ずかしそうに微笑んだ。

「タッちゃんは…俺の憧れだからな。
 昔も今も」
Home Index ←Back Next→