THE HERMIT

4

「殺風景な部屋で…済みません」

どう考えても病院の個室である。
まぁ、独居房でないだけマシだろう。

「これ…貴方が用意してくれたの?」

綺麗に整理された部屋。
行き届いた掃除。
机の上には小さな花の一輪挿し。

細やかな気配りがとても嬉しかった。

「ありがとう、篤志君」
「当然の事をしただけです…」

誉められたのが余程意外だったのか、
篤志は顔を真っ赤にしている。

「掃除位しか僕には脳が無いから…」
「どうして? 掃除も立派な特技の一つよ!
 もっと自信を持ちなさい」
「そう…ですか……」

今一 自信無さげな返答。

─ この子…誉められた事、無かったのね……。

うららは胸の奥が熱くなった。
辛く、切なかった。

「大丈夫、安心しなさい。
 私が言ってるんだから間違いないわ!」

実際は何の根拠も無いのだが。
その言葉に何を感じたのか、
彼は潤んだ目で嬉しそうに頷いた。

「先程のお話ですが…」

篤志は真剣な表情でうららを見つめた。

「【生】を云う名前に聞き覚えはありませんが…
 貴女の言われた人物は
 きっと【THIRTEENTH】ですね?」
「それがあの子の本名なの?」
「本名…と呼ぶべきでしょうか?
 僕達は【人間】とは言わないですから…」
「どうして…?」
「コレを見て下さい」

彼はそう言って、髪に隠れていた左耳を見せる。
小さなプレート型のアクセサリーが付いた
金色のピアスだった。

「あ…それ」
「彼も同じ物を付けてましたか?」
「えぇ…」
「じゃあやはり…【THIRTEENTH】なんだ……」
「教えてちょうだい。どう云う意味なの?」
「……」

篤志は返答に困っているようだった。
無理もない。
『自分が人間では無い証明』を
しなければならないのだから…。

「僕と彼…生って言いましたね。
 僕達は同じ時期に生体実験の末
 生み出された人工生命体なんです。
 僕達は通常の人間の5倍に値する運動能力と
 魔法行使、防御の能力を備えてます」
「人工生命体…?」
「一種のクローンですね。
 能力開発手術等で更に手を加えてますから
 クローン体よりも機械に近いでしょうか…」
「……」

言葉が無かった。
生の両性具有は
これらが原因だったのかも知れない。

「貴方も…なの?」
「?」
「カリストが…私のペルソナが教えてくれてる。
 貴方も彼と同じ…」
「彼は『男でも女でもある』タイプですが…
 僕は【無性】です。どちらも備わっていません」
「…そう、なの……」

篤志は特に悲しげでもなかった。
事実を事実をして受け止めているだけなのか。
それとも当の昔に悲しみを捨て去ったのか…。

「このプレートには
 異国の言葉でこう書かれています。
 『13番目に生み出されし、
  屠られる運命の贄』…と」
「生贄…?」
「他の子等は【救世主】と呼ばれ、
 喜んでいますが…
 所詮は唯の実験材料なんです。
 それを知らないだけで……」
「じゃあどうして貴方は…っ!」
「僕は此処に留まらなければならないんです。
 そう、約束したから…」

いつの間にか、彼の瞳には涙が浮かんでいた。

「どんな思いをしても、
 僕は此処に居なければならない。
 それが約束であり…罪の償いだから……」
「篤志君…」

うららはもう声を掛けられなかった。
その代わり、優しく彼を抱き締めていた。

「御免ね…。
 私にはこうする事しか出来ない……」

うららも泣いていた。
悲しみしか感じられなかった。

「…ありがとう、うららさん」

優しい声で、彼女の腕の中から篤志は微笑んだ。

「僕…貴女を守ります。
 貴女と云う女神様を…
 必ずお守り致します……」
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